第七話 紅と翠と蒼銀と
『さぁて、何の曲を聴かせてくれるのかね、神殺し?』
(そうだねぇ……。鬼神も砕く夢の歌、って奴かな?)
バハムートが咆吼し、メガフレアをこちらへと向かって吐く。それをレイプトラズトを盾状に構築する事によって防ぎ、それを突き破るようにして首元に特攻を駆ける。
空を駆けながらバハムートの首を貫き、そして悲鳴と共に飛龍は地面に倒れ伏した。息をつく暇もなく、深紅の飛龍、バハムート改がこちらへと飛び込んでくる。
「ヒュムノス語でも謳えたらカッコつくだろうねぇ」
『くはは、そりゃ俺が知識入れてないからなぁ』
短く息を吸い込み、突撃してくる深紅の飛龍の足下へと飛び込む。すれ違いざまに足に幻萼を叩き付ける。ズルリと吸い込まれるようにして短剣が飛龍の足に食い込む。筋肉や血管の切れる音がブチブチと短剣を通して伝わってくる。
……神経が過敏になった為に、こういうのまで伝わってくるのが何とも嫌だ。
グチャリという肉を切り裂いた音と共に、ゴツリと音を立て短剣が飛龍の骨に当たる。流石に切り裂けるほど柔くはないか、そのまま飛龍の勢いに持って行かれそうになる。慌てて幻萼を飛龍の足から引き抜き、逆手に構え直す。
着地しようとして一瞬飛龍がバランスを崩し、ソレを好機と見たか和途が飛び込む。後五歩踏み込めば届く、という所まで来て、飛龍は体勢を立て直す。
「……げ」
ギガフレアが、灼熱として放たれ和途を焼き尽くそうとする。ソレに向かって短剣を横薙ぎに払い、短剣にまとわりついた灼熱を無理矢理長剣として固定させる。
「炎剣の扱いは得意じゃ無いんだけどね」
どちらかとそれは俺のベースが描いた幻想の専門分野である。……が、それ自体吸収している為、扱うための知識だけなら身に付いている。低く構え、そして炎剣を先ほど斬りつけた飛龍の足に突き刺す。
骨を焼き尽くして、飛龍の足はそのまま切断された。雄叫びと共に和途に飛龍が食らいつこうとするが、次の瞬間、飛龍の動きが止まる。
食らいつこうとした少年の真下には、ところどころ途切れた未完成の炎の魔法陣が展開されていたからだ。炎自体、飛龍には大して影響は無い。が、問題なのは、少年の魔法陣。それは、竜皇の鱗すら切り裂くという竜狩りの剣。ソレは本来もう世界には存在していないが、そんなことは問題ではない。
雑誌に付いてきた付録でもタロット占いは出来るし、十字架だって木の棒が二本あれば完成する。形が同じなら、ソレは本来の役割も果たせる。
そう、炎で形成した剣とて、竜皇の鱗を切り裂く、竜狩りの剣の役割を果たすことは可能!
飛龍が全力で翼をはためかせ、大気を渦巻かせながらその場から逃げようとする。ソレに反応するようにして、和途の下にある深紅の魔法陣は唸るようにして光を放つ。
「喰らいやがれ!」
叫びと共に、一層魔法陣は強く光を放つ。逃げ切れないことを悟ったか、飛龍は相打ち狙いでギガフレアを和途に向かって放つ。
「ドラゴニア・スレイヴ!」
ツァ、と。大気を切り裂く音を響かせながら、閃光としてしか認識できない速度で竜狩りの剣は射出された。それは飛龍の炎を難なく突き破り、そのまま飛龍の顎を貫く。
「、」
断末魔を上げることすら許されず、飛龍はその頭蓋を竜狩りの剣に討ち砕かれ絶命した。ゴゥ、と酸素を吸い上げるような音がした次の瞬間に、竜狩りの剣は役目を果たしたと言わんばかりに周囲の大気を巻き込んで爆発を起こした。
後はバハムート零式だけ、と、蒼銀の飛龍の方を振り返った瞬間、
「Sterben Ende」
全く持って聞き慣れない言葉が聞こえてきた。あぁ、日本語で良いのになぁ、とか考えた瞬間、殺意が放たれる。
(――右!)
レイプトラズトを展開し、ズガン、という大砲のような激突音の次の瞬間、殺気が消え、相手の気配を見失う。
(……なんだ?)
と、次の瞬間。遠吠えと共に、蒼銀の飛龍が遙か上空へと飛んでいってしまう。咄嗟に魔法陣をくみ上げようとするが間に合う訳もなく、飛龍は見えない所まで上がっていってしまった。
『……逃がしたな』
(やかましいっ!)
呟いた春日を強制的に黙らせると同時、先ほど自分に攻撃を仕掛けてきた何かを探す。殺意が在る、という事は、ロボットでもなければ強制的に蘇生させられ戦わされている飛龍でもない。となると、人間か、ソレに準ずるおとぎ話に出てくる存在。カミサマだとかヴァンパイアだとかのアレさ。
「Schnell Wind!」
先ほどは其処まで聞く余裕が無かったが、女性――いや、女の子の声だ。ヒュォゥ、と風を切る音と同時、天空から深紅の閃光が放たれる。
「っ、」
右腕を真上に掲げ、深紅の閃光――衝撃波を受け止めるようにして、そして炎弾を放つ。無詠唱で放てる分ランクの低い魔法で在るため、衝撃波はそれを突き破り突き刺さる。
が、突き刺さったところに和途は既に居なかった。
『爆風で跳ぶとはねぇ』
春日が他人事のように(実際そうだが)脳内で呟く。それと同時、また風を切る音が聞こえるが、閃光は放たれない。
(――爪?)
衝撃波が抉った其処は、まるで爪で地面を掘り起こしたかのようだった。まさか短剣でも五本同時に持つだなんて事はないし、恐らく正解だろう。
……ただ、武器が爪という事は、それだけの硬度を持たなくてはいけない。そして、それを持つ生き物は――。
「ヴァンパイアか」
呟きと同時、真後ろから風を切る音が聞こえる。タン、と右に少し動いた瞬間、先ほどまで胴体が在ったところを細い腕が通り抜ける。が、その先端には鋭い刃の様な爪。
その腕を掴んだ瞬間、向こう側からもう片方の腕が襲いかかってくる。それを黒い障壁で一瞬止めた後、その場で腕の持ち主を地面に叩き付ける。
「!」
バン、と。壁にぶつかるような音を立てて地面に落ちた。その状態からこちらを見つめる少女の瞳は――紅。
「やっぱりヴァンパイアか」
血を垂らしたようなその深紅。間違いなく、闇の住人の証。だが、その深紅は内側から広がる翡翠に塗りつぶされていく。
「私、は……」
いきなり声の雰囲気が変わった。殺意が失せ、そして少女がまた口を開こうとした瞬間、ベチャリと紙の上に直接赤い絵の具を落としたように深紅の色が瞳に広がった。
押さえつけていた腕が弾かれ、そして少女が和途へと襲いかかる。障壁を展開するが、それすらも突き破られる。
ガブリ、と。少女の鋭く尖った八重歯が、和途の首筋に突き刺さる。
「……?」
少女はするりと和途から離れたかと思うと、不思議そうな顔をする。そしてその数秒後にはいかにも落胆したかのような表情を見せる。その瞳には再び翡翠の色が宿っており、其処には敵意も殺意も無かった。
「ごめんなさい」
ペコリと、頭を下げられる。
「で、何? ヴァムピーラとか言うのからヒトに成るために俺の血を?」
「そうです」
少女――フェルナヘレン=レヴィナスというらしい――は答えた。ヴァムピーラ――吸血鬼、つまりはヴァンパイアに限りなく近い生物らしい――からヒトに成るためには、謳詠和途の血を飲めば良い、という事を聞いたらしい。
で。その情報の発信源。
「アルファサーバか……」
話のついでに少し調べてみたが、珍しい。初めて見るタイプのサーバだ。通常、世界というのは樹形図のように別れている。道ばたに落ちる石を蹴るか蹴らないか。其処だけで、二つの世界が生まれる。
無限の可能性は、夢幻の世界を創り出す。が、アルファサーバには一つしか世界が無い。ワールド名【コア】。核と名付けられた其処に何があるのか。
「で、フェルナヘレン」
「あ、私のことはルナで良いです。長いでしょう?」
どうも会話の調子が崩れるが、まぁ、のんびりするのも良いかもしれない。一応一旦危険は去っ――。
ドン。と大気を揺るがし、街の方で爆発が起きる。
「――てなかったか!」
直ぐさま立ち上がると、和途は駆け出す。ルナが一瞬困惑したが、次の瞬間和途に腕をつかまれ駆け出す。
先ほど街で起きた蒼い爆発。アレは、間違いなく蒼銀の飛龍の一撃。
「クソが……!」
吐き捨てるように言うと、和途は更に加速した。
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