第六話 漂流者


 サーバ名【アルファ】ワールド名【コア】。謳詠和途は、其処に到着した。
「……やっと、か」
 無駄に守りが強固だった。ログインにかれこれ二ヶ月はかけてしまっただろうか。自分が来た目的である存在が未だ無事かどうか、それを気にかけながら和途は歩く。
 取りあえず街を見つけて近寄る。門番の様に見えたロボット達は、こちらを一瞥すると、また遠くを見た(恐らく今の一瞬でセンサーか何かで見たのだろう)。
 ……どうやら、この世界の管理者さんは、俺を此処に来させること自体が目的らしい。或いは、俺の所持する、何か別の物。
 特に恨みを買うような事を誰かにした憶えもない(在るとすればそれは春日のせいだ)ので、恐らく後者であろう。
 それにしてもまさかあの子を攫われるとは思わなかった。完全に自分の失態である。
「……ミーシア……」
 右手が、強く、強く握られる。腰のホルダーに入っている短剣は嘆くようにして白く光る。
 謳詠としての状態が安定したせいか、春日は完全に黙りきった。主導権は俺、佐上が握っているからであろう。眠っているのかどうかは知らない。
 それにしても、この街の中はなかなか面白い物である。ラグナロクサーバでも見たことの在るような顔がたくさん並んでいる。
 ……春日和途を含めた、その派生個体は何故かラグナロク以外のサーバでは発見されたことは無いらしい。つまり、俺はドッペルゲンガーに会ってポックリ逝くなんて事は無いようだ、有り難い。
 ミーシアを攫った蒼銀の飛龍、バハムート零式。あれだけでかい存在なら、目撃情報ぐらいあるだろう。
 管理者っていうのは結構民間人に紛れるらしいし、まさか絶対王として君臨してる、だなんて事は無いと思うんだ俺は多分きっとそうであってくれ。
 ……でないと情報は封鎖されているだろう、きっと。
 この辺がベタかなぁ、と宿屋のドアを開けてみる。一応今日の宿も確保しておく(金なんざちょいと創り出せば問題ない)べきだろうし。
 この世界では全ての住人が世界の管理者が居て、他の世界からの来訪者も存在するという事実を知っているらしい。快く通貨を見せてくれた。
 最近この世界に馬鹿でかい飛龍が来なかったか聞くと、宿の主人は首を振った。最近他の世界からの来訪者が来ている(そいつらは色々と調べて回ったりしているらしい)ので、そいつに聞くと良い、との事だ。
 名前は聞けなかった(宿に泊める人間の名前は聞かないらしい。何故だか非常に気になるが、そういう決まりらしい、この世界では)が、特徴だけは教えて貰えた。
 ちょいと長めの黒髪、んでもって特徴的な紅い眼をしているらしい。後、黒くて旅人っぽいコート。
 悠斗そのものじゃねぇか、とか思ったところでふと気づく。そうだ、悠斗はシンセカイに居るんだった。じゃあそれは無いかー、とか考えながら宿屋の主人に教えて貰った酒場のドアを開けた。
 ……結論から言えば、其処にいたのは悠斗だった。
「ゆっ、悠斗!?」
 つい声を上げてから慌てて口をふさぐ。考えてみれば別の悠斗が此処に存在してもおかしくない。で、俺のことを知らない悠斗にこんな事を言えば勿論冷たい視線が……。
「……和途か?」
 あっ、アレーっっ!?
 何故か俺を知らないはずの悠斗はマジマジとこちらを見ている。目を見て、髪を見て、ふと気づいたように声を上げた。
「あぁ、春日とは違うのか」
 春日と面識のある悠斗……。そうか、藤薙か! 俺と一緒にいたのは世刻だったからな、俺とこの悠斗は初対面な訳だ。
「えーっと、俺は初めまして、だな。謳詠和途だ」
「そうだな、初めまして、だね。藤薙悠斗だ、よろしく」
 手を差し出されたので握手を交わしておく。佐上と春日としての関係について話し出そうとすると、俺の前に手を出して、悠斗は言った、
「大丈夫だ、その話はたった今把握したところ」
 どうやら、シンセカイにいる世刻とリンクを繋いだらしい。俺と春日が謳詠として同調するように、彼らも同調出来るのだろうか?
「さて、君がこっちに来た経緯も解った訳だが」
 悠斗が呟き、俺の額に手を当てる。俺が探しているのが何か、視覚情報も得ようとしているのだろう。記憶ごとコピーでも取るつもりだろうか。
 悠斗が何かを呟いたかと思った次の瞬間、記憶が頭の中で再生され始めた。
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