第四話 謳詠い
勢い任せに突撃したは良いが、目の前にいる飛龍は、物理攻撃が効くのかどうかすら未だ解っていない。章人がパンドラにて斬りつけるとソレは雄叫びを上げ章人を吹き飛ばした。
「神文鉄火!」
紅蓮の斬撃が飛龍の鱗を傷つけるが、大したダメージを与えたようには見えない。また雄叫びと共に吹き飛ばされる。
章人の方へと和途が駆け寄ろうとした瞬間に、飛龍の尻尾が和途の腹部を貫く。鮮血が口から溢れ、地面へと滴り落ちる。
ズルリと尻尾が抜かれた次の瞬間、飛龍は天に向かってメガフレアを放った。天を切り裂いて伸びた光の尾は、ぷつりと途絶える。
すぐさま貫かれた箇所を修復させながら疑問を感じた和途が、首を傾げる間も与えず、深紅と蒼銀の飛龍が現れた。
「……三体って、オイ……」
つまりは、改式砲撃のデータであるバハムート改、零式砲撃のデータであるバハムート零式。三体の飛龍が吼え、一斉に火を噴く。
「う、」
一瞬飛び退こうとしたが、視界に入った章人を見、和途はそちらに駆けだした。
「チェックメイトだ、神隠し、鬼砕き」
何処かからそんな声が聞こえたような気がした瞬間、バチン、と世界が弾かれるような音と共に、漆黒の障壁が章人と和途を、三体の飛龍の炎から護った。
「レイプトラズト!?」
和途がその黒い障壁を見て驚く。そして驚いた次の瞬間に、ピン、とメールの着信音が響く。漆黒の障壁の中、急いでメールを読み始める。
『よう、元気かよ神殺し? いや、鬼砕きと言った方が正しいか』
そんな書き出しで、比較的どうでも良い文章が多い。適当に端折り、必要であろう部分を流し読みしていく。要約してしまえば、
『俺の力を送る、存分に謳でも詠え』
との事らしい。自分のベースがそう言うのだ、思う存分詠わせて貰うこととしよう。
戦いの、謳を。
「ウタウタイ、機動!」
世界の空気が変わると同時に、
『ラグナロクサーバ、ワールド【パンドラボックス】より、春日和途のログアウトを確認。同時に、ラグナロクサーバ、ワールド【シンセカイ】より、佐上和途のログアウトを確認』
機械的な音声が其処に響き、そして章人は飛龍達からの攻撃を避ける。何か来る、というそれだけは関知している飛龍達が辺りを警戒している。
『ラグナロクサーバ、ワールド【シンセカイ】に、謳詠和途のログインを確認』
そして次の瞬間に、三体の飛龍が空中より飛来した灰色の光に貫かれた。
「久々だなぁ、この状態も。……かといって、勝てるかどうかは知らないが」
謳詠和途は、呆れたような表情で、右の朱眼で世界を捉えた。短剣を構え直し、飛龍の咆吼を切り裂く。深紅の飛龍が突撃してくるが、それを受け止め、切り裂く。
『さぁて、ウタウタイは飛龍三体に勝てるのかね?』
脳内で春日の声が反響する。相変わらずうるさい奴だな、とか考えた後(もしかしたらこれが伝わってるかも知れないから恐い)、ふと気づく。
(お前、何で『知ってる』んだ?)
そう、春日の記憶は全て夢の中の出来事、として処理させたはず。疑いを持とうが何をしようが、何一つ証拠は残っていない。そう――。
何故、こいつはレイプトラズトを持っている?
『うるさくて悪かったねぇ』
やべぇ聞こえてた。などと考えたがこれも伝わってるんだよな、と思った次の瞬間に、飛龍の咆吼が和途を焼き尽くそうとする。目の前にレイプトラズトによる障壁を展開し防ぐ。
残念ながら章人の方を見る余裕はないから良く解らない。が、ま、死にはしないだろう。神隠しの箱、ってのはなかなか厄介な代物らしいし。
『簡単だよ。昔見た夢があるなら、もう一度その夢を見れば良いんだ』
何を言って居るんだコイツは、と思った。世界一つ紡ぐような馬鹿げた夢を自分で見る? そして、それを現実に影響させるだとか、とまで考えたところで気づく。
……あぁそうだ、コイツ馬鹿だった。
『そ、馬鹿にしか出来ない事だって在る』
自分の見た夢と現実をごっちゃにする、っていう危ないようなことも出来る、って訳か。
短剣をくるくると回し、そして飛龍達に切っ先を向ける。幻萼が白く唸り、飛龍達は威嚇するようにして吼える。
「ふぅ」
小さく息をついて、そして飛龍達へと駆け出す。
『エントリーナンバー一番、謳詠和途選手、入りまーす』
馬鹿にうるさい春日の声が、脳内で響いた。
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