第三話 飛龍


「神隠しの箱が動いたか……」
「鬼砕きの剣も動き始めましたが、いかがしましょう?」
 漆黒の中で、男が呟く。女が呟くようにして答えるが、それは漆黒の中に静かに響き渡るようにして波紋を広げる。
「鬼砕きごとに興味は無い。元々奴が動こうが私には関係無い」
「しかし、ウタウタイが出てきたら……」
「出てきたら潰せば良いだけの話。パンドラさえ手に入ればどうとでもなる」
 それ以上の会話が無駄と悟ったか、女はすらりと伸びるようにして立ち上がり、漆黒のなかから音一つ立てず消えた。
 沈黙の中で聞こえてくる暗黒という名の叫び声を、男はじっと聞いていた。


「来い、パンドラ!」
 叫びと同時に、章人の右手にキーブレードが握られる。純白の光を尾として引きながら、禁断の箱の鍵であるソレはロボット達を軽々と引き裂いていく。
「くそっ……、キリが無い!」
 幾ら切ろうと、切った分其処で再生してくるのでは無いだろうかと疑う程に、ロボット達は湧き出るようにしてザカザカと出てくる。
 片っ端から切るが、こちとら人間、いつまでも体力が保つわけではない。そのうちに疲れが目に見え、そしてその分傷も身体に付けられていく。
「う、おぉぉぉ!」
 物理攻撃は全て無効化されているが、ソゥハイトの一撃はあっさりと食らう。章人のソゥハイトはパンドラ、武器その物で在るが故に、なんら問題はない。
 ……吸血鬼として形成されてしまった自分の別人格は、ラグナロクをソゥハイトとしていたらしい。……まぁ、過去に一度ずつ春日に、そして佐上に殺されている訳なのだが。
 サン・ミゲルの住人を逃がしているファンタズ・フラグメント達と会ったが、誰一人として和途の行方を知るものは居ないらしい。
 不安が膨らむが、きっと『和途』ならば大丈夫だ、と自分に言い聞かせる。パンドラが虚しく叫び、そしてロボットが切り捨てられる。
 と、
 ――ガゥン。
 機動音とも遠吠えとも付かないソレと共に、幾千という光の帯が降り注いだ。
「――っな!?」
 機銃によって穴だらけにされた体を無理矢理に動かしながら、和途が叫ぶ。上空から降り注ぐ光はまるで槍の如く、ロボット達を貫く。
 ……無差別砲撃、とでも言えばいいのだろうか。だが、この砲撃は龍ノ咆吼からなるもの。恐らく、先ほど何かで貫かれた際に砲撃システムの管理パスワードを盗まれたのだろう。
「……ちっ、だからデータってのはむかつくんだ」
 今のは恐らく壱式砲撃。殺す気ならば容赦なく零式砲撃を使ってくるはず。つまり、敵は俺からは壱式砲撃の管理パスワードしか盗めなかったと言うこと。
 ……しかし。
「何で、ロボット共に効いてるんだ……?」
 龍ノ咆吼はソゥハイトの様な精神的な攻撃ではない。そして、先ほどこのロボット達にはそれは無効化されていたはず。
「……まさか!?」
 もう一度和途が空を見上げたその瞬間。
 飛龍が、天空より舞い降りた。そう、それはまさしく龍ノ咆吼のモデルとなったワイバーン。神々しいまでに闇に溶けるかの如き黒に包まれたその龍。
「バハムート……!」
 しかし、本来この飛龍は既に死んだはずの存在。何故かって、その力は龍ノ咆吼として今俺の世界の砲撃システムとして作動していた。……つまり。
(敵さんは、データを再生する能力を所持してる……!)
 メガフレアが、和途の体を焼き尽くすべく放たれた次の瞬間、ソレは蒸発するようにして霧散した。
「和途!」
 振り返ることもせず、和途は短剣を構える。背後から自分の名を呼んだ者が飛び出、そして自分もそれに続く。
「行くぞ、章人!」
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