第二十七話 託される物


 カーナー=カザンスキーは如月総司を圧倒していた。
 それはそうだ、春日の様に闇を操る訳でも無い総司が彼に攻撃する術はない。その為に総司は一方的に影の中で斬りつけられていた。
 以前春日が彼と戦うときに形成した闇の魔法陣、
 カーナーはそれを会得しており、総司を闇の中に閉じこめていた。
「……そろそろ、良いですかね」
 全身を傷だらけにされた総司はそう言った、
「今更貴方に何が出来るとも思わないがっ!」
 カーナーが一撃を入れようとしたその瞬間、
 全身に激痛が迸り、そしてカーナーは倒れ伏した。突然の一撃に練っていた魔力が霧散し、影から元の身体に戻る。
 そして彼が倒れた音を聞いた総司はその彼の頭を地面に踏みつける。
「流石に俺だってただ単に殴られ続ける趣味は全く無いですよ」
 にゃあ、とそれに賛同する様に黒猫が鳴く。
 冷静さを取り戻したカーナーが総司をはねのけると同時、幻覚であったかのように全身から痛みが消えた。
「幻術使いか!」
「今の今まで戦ってた相手の能力も悟れないんですか。……仕方がない、教えてあげましょう」
 赤光すら放つかと錯覚させるほどに総司は笑みを見せていた。
 黒猫がにゃあと鳴いた次の瞬間、先ほどの倍程度の痛みが彼に襲いかかる。
「蓄積した痛みを指定した存在に与える能力、です。……尤も、彼と居る内に能力が変化して、傷さえも蓄積出来る様になったみたいですが」
 つまり俺にダメージはないんですよ、と彼は言った。
 その一言を言うまでの間に何千何百回とカーナーに与えた傷全てを再び回収し与え回収し与え――。
「おや、気絶しましたか」
「ぐ、……ぁ」
 悪夢でも見ているのか倒れ伏したままに彼は唸った、
「何に釣られたか知らないが、俺もやらなきゃいけない事があるんでな」
 いつもとは違う口調で総司がそう言った瞬間、
 術者の魔力を失った魔法陣はその効力を発揮する事を止めた。
 いくつもの結晶になって散らばる闇の世界を総司は抜け出ていった。


「んー、あらかた片づいたかなー」
 黒い刀をひゅんひゅんと振り回し宵は呟いた。
 城が即席で制作したプログラムとでも考えるのが妥当だろうか、
 この城に入った存在全てがどうやら攻撃対象だったようだ。
(“春日”の目的はそう言う事か)
 和途と対峙する前、真那からあらかたの事は聞いて置いた。
 悠斗が和途と戦う事とした理由、そしてそれを利用して最大の障害を消そうとした春日。
 しかしあいつの思惑から外れた事もあったはずだ。
 春日の欲した、『彼女』の力。それを餌にして釣ったハズの存在は大抵は和途の側に着いたし、戦力は大体互角。
 上での戦闘を音だけでも聞いた分には、どうやら全員が勝利している様だ。
 此処まで来たら、後は自分が彼に託したそれが芽生えるかどうか。
「あとはあいつ次第、か」
 飛び出してきた最後の一体を軽く滅し、宵は上の階へと歩き出した。


「……負けた、か」
「あぁ、俺の勝ちだ」
 天井を見上げる悠斗に、和途はそう言った。
 そうか、と一言だけ呟き、悠斗は何も言わなくなった。
 上の階へ続く階段へと向き直り、そして和途が一歩を踏み出し、
 ズルリと彼の中から何かが抜け落ちた。
「春日?」
「その上の階は俺の出演するイベントじゃねぇな」
 振り向いた和途に春日がそう声を掛ける。
 全ての色を混ぜて作られた様な黒い瞳はただ真っ直ぐに和途を射抜く。
「天使ちゃんを救えるのはお前だけだよ、とっとと行ってきな」
 ひらひらと手を振りながら春日は振り返り下がっていった。
 その向こう側には、フェルナヘレンに憐奈に俊哉に卓斗に――、助けてくれた人間達が、こちらを見ていた。
「……、」
 もう一度振り返り、階段へ一歩を和途は踏み出した。
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