第二十五話 世界樹と吸血鬼
「可愛い女の子とは出来れば戦いたく無いんだが」
「だからって甘く見ないでください」
再び先ほどと同じように、フェルナヘレンの片目は深紅に、もう片方の瞳は翡翠に染まる。
「死ぬのは勘弁だからね、残念だがそうするよ」
背負っていた灯疾を抜き放つ。
それだけで熱風が辺りにまき散らされ、ちりちりと何かが焼ける感覚がする。
炎の使い手であることは一瞬にして察する事が出来た。
それは和途から聞いていたし、けれど、
「何故和途さんを裏切ったんですか」
純粋な疑問だった。
和途の兄貴分とも言えるはずの真那が、どうして彼と対峙しているのか。
「俺の弟はそう望んだ。……結局俺はどっちつかずなだけさ」
「じゃあ、……何故悠斗さんは和途さんを」
「あいつは、……自分と同じ事を和途の奴にさせたく無いだけだよ」
惚れた相手が死ぬのなんざ嫌だろう? と真那は言った。
その言葉に一瞬だけフェルナヘレンは動揺し、
「お喋りが過ぎたみたいだ。どうも君みたいな子が相手だと口が軽くなっていけない」
言って、彼は戦闘態勢に入る。
黒の両翼、白の両翼。四枚の翼が彼を天使のように見せる。
ざわりと紅の自分が警告を発した次の瞬間、爪の一撃が灯疾に防がれる。刹那の間を置いて其処に幾百の炎弾が襲いかかるが其処にフェルナヘレンの姿はない。
「獅子焔華」
彼女のいた方向に向かってそれを放ちそれを避けるであろう空間に魔法陣を展開させる。
「え、」
案の定其処に出現した彼女は既に展開されているそれに驚き、
「嘆唄」
バン、と炎が魔法陣の上を焼き尽くす。
世界のバランスを保つ、親友が信じた人間を護る、
互いが互い、共に身勝手すぎる理由であるかも知れない、
だがシンプルなその理由こそ戦いの理由、
「玄鶴!」
飛び来る閃光を、
「不視槌」
ぐちゃぐちゃと狂わされ乱れた大気が消し潰す。
互いの技を互いが打ち消し合いながら延々と戦闘は続いていた。
「同族嫌悪って奴かもな?」
「それには多少同意させて頂くとする」
リボルバーのグリップの部分で俊哉の一撃を邦仁は防いだ。
ほぼ零距離、互いの攻撃は簡単に互いを殺せる、
距離も取らず二人は刺し違えでもするかのように必殺を放ち合う。
「無崩……!」
「虹、霓!」
自分自身を狂わせようとするその一撃ごと俊哉は切り裂こうと一閃する。
それは邦仁の身体を引き裂き、俊哉は打ち勝った。
「、な」
しかし邦仁の必殺は消えていなかった。
慌てて俊哉が振り返ると、まだ彼は生きていた。
だが、
「あ、いやdにげrああああAAAAAAAAAAAAAAAA」
まるでシステムにバグが発生したかの様に彼自身が狂った。
「ソゥハイトの暴走……?」
俊哉の想像は正しく、邦仁のソゥハイトは彼が狂わせてきた全てだった。その全てが逆流し彼自身を――、
「ころsころしてころせころせころす」
そのまま彼は彼に呑まれて消えていった。
「……『彼女』の力ってのは……」
たかが幻想がこれだ。世界を動かせるなんてのは、どんな力だって言うんだ……。
わき上がる不安をそのままに、俊哉は其処に立っていた。
「驚いたな……」
真那は心底驚いたような顔をしていた。
嘆唄の直撃を食らいながら、少女はなお其処に立っていた。
「私は、揺らがない」
言いながらのフェルナヘレンの一撃を灯疾で防ぐ、しかしそれはぐらりと真那のバランスを崩す、
「私はもう自分に迷わない」
二人のフェルナヘレンは一つになっていた。
幾度と無く自分の立場に迷い続けた真那、
自分自身を見つけだし揺らぐ事のないフェルナヘレン、
勝敗は目に見えている、
「Lebensende!!」
巨大な一撃が迫り、そして真那はそれを防ごうとし、
その両腕は、力無く下げられた。
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