第二十一話 決戦、覚醒
「、な!?」
総司が驚きの声を上げたその一瞬に、夜宵の蹴りが入る。
既に夜宵によって地に伏していたフェルナヘレンの目線が、血の海に浮かぶ和途を捉える。
「、」
ざわ、と。
「まずい、憐奈――!」
総司の叫びと共に、憐奈は総司を抱え込んで飛ぶ。
次の瞬間に夜宵の身体を爪が引き裂こうと迫り、そして受け止められる。
「お目覚め。かしら」
「あぁ、あああああああああああああああああああああああ!」
深紅の瞳を持った彼女が、目を覚ます。
人には視認出来ないその速度で夜宵とフェルナヘレンは踊るように刻み合う。
(どうする、考えろ、考えろ――!?)
憐奈を無事に帰すにはどうすれば良いか。総司が思考を巡らせて――。
「いや、別に敵一人倒したら俺の役目が終了する訳じゃなくてね」
いつの間にか彼らの後ろに立っていた宵の刀が振り下ろされ、
晶波卓斗は迷っていた。
和途、というあの人物達を倒す事で、自分たちは『彼女』の力によって何かを得る事が出来る、そういう話だった。
――だけど、なんだこれは?
血の海に浮かぶ和途というあの少年。どこかで見た事のあるようなあの顔が、無機質に瞳を閉じたまま浮かんでいる。
その向こう側で僕は何を得ようとしている?
得て、それで何がある? 何が起きる!
楓は、楓はそれを祝福するというのか――!?
「ふむ、やっぱりな」
自分の刀を受け止める大剣を見ながら、宵は呟いた。
「違う、――違う!」
俺の妹はそんな幸福を望んだりなんかしない!
卓斗の大剣は宵の刃を受け止めていた。
「勝てると、一瞬でもそう思ったか?」
弾き飛ばされ、そして彼に飛来する刃を、今度は俊哉が受け止める。
友人を傷つけようとするのなら、先ほどまで同じ側で居た人間でも切り捨ててみせる。
俊哉は宵に向けて一撃を振るう。
迷いの無いその斬撃に、宵の腹部に切り傷がつく。
「オーケー。まとめてかかってこいよ」
不敵に笑いながら宵は呟く。そしてその目線は一瞬にして後ろを振り向き、
右手一本で幻萼を受け止めた。
「神殺しの奴はおねんねだが、別に俺は起きてるぜぇ?」
「その身体でよく動くモンだなお前も」
血の中に溺れていた和途が、其処にいた。
そこにいる彼を見た瞬間に、卓斗の中で何かが弾ける。
「――和途!」
春日に向けて、卓斗が声を掛ける。全ての世界の晶波卓斗が、彼の全てと繋がった。
卓斗のその覚醒と共に俊哉の中の全てが目覚める。
(全部の鍵が起きたな?)
宵は不敵に笑い、そして三人を薙ぎ払う。
「鎹っ!」
吹き飛ばされながらも俊哉の一撃が宵を射抜く。
一瞬体勢を崩した其処に春日のレイプトラズトが襲いかかり、
宵の左手に触れると同時に消し飛んだ。
「!?」
次の瞬間襲いかかってきた一撃を避けて、着地する。余りに先ほど食らったダメージがでかいためか、足下がふらつく上に視界が霞む。
「おいおい、……幻想殺しでも搭載してんのかその左手」
「ありゃ、気づいたか」
どうやら、一番相性が悪いらしい。
「ルナ! 和途なら大丈夫だから!」
フェルナヘレンと夜宵の戦いに介入し、憐奈は叫ぶ。
その言葉に深紅の瞳が翡翠に染まる。
「早月」
刹那にして襲いかかってきた一撃を総司が受け止める、
「させるかァ!」
その光景を眼にして、フェルナヘレンは夜宵に向き直る。
今、自分が出来る事――。
それはとても怖い事で、今までの彼女には出来なかった事。
それでも、今目の前にいる友達を護りたい、そう思った。
(力を、――貸して)
彼女は、彼女自身と向き合う。
右の眼だけが深紅の絵の具で塗りつぶされる。彼女は彼女の意志を持ちながら、本来のその力を目覚めさせる。
「……、」
総司と憐奈の攻撃を捌きながら、夜宵は彼女を見つめる。
つい数瞬前まで捌ききれていたこの二人の攻撃も、そろそろこちらの処理能力の限界だ。
彼が私に達した目的は。既に遂行されているはず。
「――起きて。凌」
そして彼女は彼を起こす。
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