第十九話 一時の休息
どれだけ歩いたかも解らないが、取り敢えず城には到着できた。
「少し……休みませんか?」
遠慮がちにフェルナヘレンが言うが、その方が良いだろう。
「うん、そうしようか。憐奈ー、適当に空間魔法でスペース作ってくれ」
「はいはいーっ、と」
普段なら文句の一つでも言いそうだが、休むためとなると速攻でやってくれる辺りが面白いところなのかも知れない。
『人間なんて大抵そんなもんだろ』
(そうか? ……俺には解らないな)
存在させられた時から、異質に囲まれて育った異質。
何よりもあるべき世界の姿を知らず、そして自らの異質しか知らない少年。
けれど、
『お前はもう気づいてるはずだけど、な』
彼の基盤は、どうやら何かに気づいてるようで。
どういう事か聞いても答えてもらえないので、ひとまず総司と話している内に空間が出来上がった。
「お、思ったより良い感じ」
なんだか奇妙な光が浮いているので憐奈に何か聞いてみると、
「私たちを私たちって認識できなくなる空間魔法、ってとこね」
「要は城下町で遊びたいとそう言う事か?」
笑いながら訪ねると勿論、と満面の笑みが帰ってきた。
各自がその魔法に手を触れた後、憐奈は総司を引っ張って行ってしまった。
「さて、と……」
こんな便利な魔法があるんなら、城下町で宿でも取るか、と歩き出そうとすると、フェルナヘレンに裾を掴まれた。
「一緒に回りません?」
一人でこんな広いところ回っても確かにつまらないだろう、俺のように春日の奴と会話が成立するわけでも無いだろうし。
「ん、良いよ、どうせ暇だ」
っと、宿に行くなら憐奈達にも伝えとかないと、
「憐奈ー、宿取っとくから其処でな」
遠くに居るので聞こえるかと思ったがはいはーい、と言う返事と手を振っている彼女の姿が見えたのでどうとでもなるようだ。
「んじゃま、取り敢えず宿取ってから回るってことで」
「はいはーい」
憐奈のマネをしてフェルナヘレンが返事をしたため、笑ってしまう。
どうやら本当に仲がいいみたいだ、この二人は。
「和途さんとミーシアさんってどういう関係なんですか?」
何を唐突に聞くかこの子は。
「んー。……一度殺し合いはしたね」
フェルナヘレンが目を見開く。そりゃそうだ、一度殺し合った奴をなんで助けに行ってるのかって話だ。
ゲートに関しての経緯を話しておく。彼女が彼女で無くなって、彼女が望んだ死を、自分は与えた。
それが罪でないだなんて誰かが言い切れるわけもない。
「……もう一度、」
「?」
「もう一度、ミーシアさんが殺してと頼んだらどうしますか」
和途の方を見ながらフェルナヘレンが問う。
「……解らない、な。その時にならないと」
困ったように笑いながら、和途は言った。
そんな返答を聞いて、フェルナヘレンはもう一度前に向き直る。
ふぅ、と一度だけ小さく溜息を吐いた後、
「あれおいしそうですね」
そこらで売ってる屋台の食べ物を指してフェルナヘレンが言う。
……あとはご想像にお任せする。
「お帰りー」
「ただいま。……っても家じゃねぇけど」
懐がどれだけ寂しくなったかを再確認しながら宿に入る。
今回は部屋を別に取ってあるが、ひとまず和途と総司の方の部屋に集合して話す事になった。
「さて、後はあの城に正面から突っ込む訳だが」
「何かしらの策とかは無いのですか?」
総司が問うが、
「残念ながら策が立てられるほどの戦力が在るわけでもないし、通じるような相手でもないさ」
肩をすくめながらそう和途は答える。
「今までの展開から察するに、俺より実力が上なのが4、5人は居ると見て良いだろうな」
「うぇー? そんなのに挑むの?」
憐奈が不服そうな声を上げるが、しかし不安がったものはない。
流石に勝機もなしにただ突っ込むだけの馬鹿とは見られていないのだろう。
「勝つさ。勝たなきゃいけない理由がある」
呟いた顔に、フェルナヘレンの視線を感じた。
話すと言ったって、要は最後の意思確認。
元々和途個人の事情によってここまで来たのだ、わざわざ関係のない人間が戦いに突入する事もあるまい。
つまり、ここから先、命の保証など欠片もない場所に、着いてくるかどうか、というそれだけの話。
「ここまで来て下がるつもりは無いわよ?」
「乗せられた船ではありますが、乗りかかった船でもあります」
というのが二人の返答だった。
「……待ってろよ、ミーシア」
意地でも、取り返す。
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