第十五話 旅人と雷帝と世界樹
「……そう。彼も。動いたんだ」
戻ってきて一部始終を伝えると、夜宵はそう呟いた。
何か知ってるのか、そう訪ねると、彼女は首を横に振る。
「『私は』何も知らない。『彼』が。教えてくれる」
「……ソゥハイトか」
自分たちに宿った力、それはそういう名前のものらしい。
そして彼女が持つそれが、きっと彼女に知識をもたらしている。
「全部。話すわ」
それをもし貴方達が信じてくれるなら、そう続けて、
「一緒に。行きましょう?」
「で、」
和途が呟く。その横ではフェルナヘレンが苦笑いをしている。
「何よ良いじゃない。美人が旅についてきちゃうのよ?」
お得でしょう、と憐奈は胸を張って言う。
ちなみにその左手は彼の幼なじみであるという如月総司を引きずっている。迷惑この上ないという表情をしながらどこか諦めているように見える。
成る程、日常茶飯事か。
「それで、コイツがなんでしたっけ、ソゥハイト?」
総司は自分の肩に乗っている黒猫を指して言う。
彼が俺たちの前に姿を現したとき、既に彼はソゥハイトを発現させて居た。彼もただの猫では無く、自分が生み出した何かである事は気づいていたらしく、『影』と呼んでいたが。
「あぁ。所有者の幻想――願望とかそんな類の物の具現で在る事が多い、かな」
「自分の『影』そのもの、であることもありますけどね」
フェルナヘレンが少しだけ悲しそうに笑う。
この世界に辿り着く前に起きたヴァンパイアとしての彼女との戦闘。あのときから感じては居たが、普段は彼女の本能であるその一面はソゥハイトとして封印してあるらしい。
いつかのジャンゴが、死にかけたリタをおてんこ様と共に自身のソゥハイトとして身の内に留めて置いたように。
……まあ、それは全て春日が切り裂いたのだが。
さて、それはともかくとして俺たちは東に向かって進んでいた。
飛竜を見かけた、というその情報だけを頼りにして。
「……止まって!」
フェルナヘレンが言った次の瞬間に、
和途達の目の前に誰かが転移魔法を使って現れた。
「っ、……震電?」
「久しぶりだな、和途」
目の前に現れた男はそう言った。
知り合いだと言う事をその流れから察して警戒を解いたフェルナヘレンの喉元に刀が突きつけられる。
それと同時に総司が黒猫に呼びかけるが、その周囲には数えるのが面倒な程度のプラズマ弾がいつでも放てると自らを輝かせていた。
「遅い」
震電がそう呟いた時、和途は幻萼を構えていた。
それを見てくつくつと震電は笑う。
「昔よりはマシだが、矢張りまだまだだな」
言ってフェルナヘレンの拘束を解く。力無く地面に座り込んだ後彼女は震電を見るが、反撃しようと言う意志は感じられない。
彼我の実力差を本能的に感じ取っているのだろうか。
「ああ、伝えたい事が在ってきたんだ」
思い出したような震電の呟きに耳を傾ける。
「伝える事は二つ。蒼銀の飛竜は討伐された事。もう一つは、ミーシア嬢は俺たちが預かった事」
幻萼と震電の刀――雷帝――が鬩ぎ合う。
言い終わるか終わらないかの刹那に斬りかかったが、それでも抜刀から太刀筋を見切ってそれを防ぐまでの動作を行われてしまう。
「その続きによっちゃあ殺す」
しかし臆す事無く和途は言う。
「何、悠斗の奴が良い女を丁重に扱うのは知っての通りだ、気にしなくても良かろう?」
不敵に笑いながら震電は答える。
いつかの鬼のような瞳を見せる和途に、震電は言う、
「ユグドラシル、アルトネリコ。似たような、世界を繋ぐための物がここにだってある」
世界を紡ぎ、繋ぐ物。
アルトネリコの様な、管理されている塔、
ユグドラシルの様な、終焉に耐えうる樹、
「彼女は其処にいる、取り返したければ来い」
「解ったよ、乗ってやる」
というよりは、乗るしかない、というのが正しいのだが。
「ああ、あと手札が圧倒的にそちらが不利なんでな。――プレゼント、だ」
瞬間にも満たない時間で憐奈の元に移動した震電が、彼女の額に手を触れる。
バチンと稲妻が弾けるような音がして、憐奈はその場に崩れ落ちた。
和途と目線を交差させた後、現れたときと同じように震電は魔法陣によって転移していった。
「……、……大丈夫か?」
まだ地面に座り込んでいたフェルナヘレンの手を掴んで立たせる。震電が居なくなると同時にプラズマ弾も消え失せたのか、総司は憐奈の所に駆け寄っている。
「余り揺するな。覚醒を強要された人間を不安定にすると不味いかも知れない」
「覚醒? どういう事ですか」
「ソゥハイト、……ですよね」
その通り、和途は呟く。震電が彼女の額に触れた瞬間から、彼女からソゥハイトの感覚を感じるようになった。
いつの日だか、真那が十三番の記憶をユグドラシルを使って引き出したのと同じだろうか。
……だが、こちらの手持ちのカードを増やして震電はどうするつもりなんだ?
悠斗が居る事は間違いないが、この面子だと真那の奴も居そうだ。しかし、わざわざ別の世界を舞台にして踊る程の手間を掛ける必要はあるのだろうか?
その辺りを考慮すると、最初にミーシアを連れ去ったのとは別の立場から動いているように思える。
とりあえず、
「とことん巻き込む形になるみたいだ、すまん」
「……はぁ。謝罪の前にさっさと終わらせて欲しいですね」
総司の溜息と共に、彼のソゥハイト、黒猫ネウルはにゃあと鳴いた。
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