第十四話 立ち位置


「はぁ。……ったく、遅ぇっつの」
 地面に叩きつけられたままに宵が呟く。吹っ飛ばされた後にエネルギーが大体回せたのでそれほど酷い傷も負っては居ない。
 ただ、此処で飛び出すのも邪魔だろう。
 いや、むしろ飛び出せば俺さえ切り裂きそうだ、と宵は村に向かって歩き出す。


「うおおおおおおおお!」
 彼の手に握られた白銀の大剣が飛竜の頭を叩き割ろうと振り下ろされる。
 しかし強靱であるその鱗が剣の進入を拒み、
 雄叫びと共に先ほど宵が食らったのと同じように爪でこちらを切り裂こうとする。
「楓!」
 言いながら卓斗が左手をそちらに向け、
 すると一瞬だけ見えた歪んだ人影によって爪の一撃が相殺される。
「なんなんだよアレは……!?」
 俊哉が呟く。何故卓斗が、あんな化け物と互角に戦って居るんだ。
「人は。自分の翼に気づかないの」
 夜宵は、呟く。蒼銀の飛竜と、そこで舞うように戦う卓斗を。
「自分に翼があると知ったとき。人は飛べる」
 下を向いて、俊哉は考え込む。
 自分に、翼がある――?


 ――何を望む?
 頭の中に唐突に響くその声。
 俺は、何を望んでる?
「あいつを……」
 ――我は汝の夢より出でし者。
「あいつを、守るだけの力を、俺に――!」
 自分の友人を守るだけの力を。
 ――叫べ、我が名を!
「……、」
 それでも、一瞬だけ躊躇ってしまう。
 だが、一歩を踏み出す。
「――来い、リキュオス!」


 振り回した白銀の大剣――シュヴルツが、竜の牙によって止められる。
 その状態から飛竜が大きく息を吸い込み、
(まずい!)
 後ろに向かって飛んだ其処にブレスが襲いかかる。
 避けきれない、そう感じながらもシュヴルツで防ごうとした其処に、
「翡燕!」
 銀色の閃光が、蒼銀のブレスを引き裂いた。
 飛竜がこちらを見つめる瞳が動揺したように見える。
 視界の端に俊哉が映ったが、今は其処について話している場合ではない。
「紅鬼のっっ、」
 白銀の大剣が唸る様に光る。
 そしてそれは竜の顎を下から真っ直ぐに貫き、
「掌あああああああぁぁぁぁぁ!!」
 彼の力が炸裂し、人語では理解出来ない断末魔と共に飛竜は崩れ落ちていった。


 その喉についていた宝玉が音を立てて割れ、
 そして空中に現れたのは――。
「なんで女の子が?」
 一瞬考えたが次の瞬間には両の手で落ちないように少女を受け止める。
 遥か下に居る夜宵の方を向くと、頷く。どうやら連れてこいと言うことらしい。
 卓斗に目で合図をしてから降りようとした次の瞬間、
 少女が手の中から消え去った。
「な、」
「いやー、悪い悪い。渡す訳にはいかないんだ」
 風に茶髪が靡く。背負われた朱い大剣が男の戦い方を物語る。
 くるりと振り向いた男の朱色の瞳がこちらを見つめる。
 その手には先ほどの少女が抱きかかえられていた。
 卓斗と俊哉が各々の武器を構え、そして
「『止まれ』」
 男の言葉によって、動きがぴたりと止まる。
(なんだ、これ……!?)
 恐怖による足止めとでも言うところか。
 本能が叫んでいる。動けば死ぬ。
「……ふむ? なかなか面白そうだ」
 男が呟くと同時に、浮いている男の足下に炎の魔法陣が展開される。
「俺の名前は如月真那。また会うだろうから覚えておきな」
 あ、年齢は21ねー、などとふざけた調子で呟くと同時に男は消えた。


 転移した真那は森に降り立つ。
 その喉元に黒い刀が突きつけられる。
「何でお前が此処に居るんだ? 真那」
「そりゃあこっちの台詞だねえ?」
 ボン、と爆発したその衝撃で刀が弾かれ、その一瞬で真那は随分と遠くまで退く。
 宵はその真那へと視線を向けながら、太刀を構え直す。
「まあ、強いて言うなら面白そうだから、かな? 弟の遊びに付き合うのは兄の役目さ」
「あいつは遊ぶようなキャラじゃないだろうよ」
 それもそうだ、と真那は呟く。
「で、どうするよ?」
 それは問い。
 こっちに付きます? それとも敵対します? という。
「俺はこっちに付かせて貰うよ。女の子を道具にするのは趣味じゃない」
 言って宵は再び村の方へと歩み出す。
 それを黙認した真那はどこかへと歩いていった。
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