第十二話 影と影
「で、観念した方が無難だと思うんだけどそこんとこどうよ?」
「不利になった程度で売れる程度安い誇りを持った覚えは無いですね」
「あ、そ」
が、と鈍い音を立てて、春日は相手を蹴飛ばす。声から推測するに男、暗闇で何するつもりだったのかなんて問いつめられる事はなさそうで何よりだ。
(いや、なっても神殺しのせい、って事でなんとかなるか?)
などとくだらない事を考える。
と、虚空を切り裂きながらこちらへと殺気が飛んでくる。
「っと、武器は影じゃ無いのか」
障壁として使用しているレイプトラズトはこの魔術の為に使ってしまっているので、避ける事にする。
幻萼をすらりと抜く。一切の光が届かないこの空間では、手にあるその感覚だけが頼り。
槍の飛んできた方向へと駆ける。槍が壁にぶつかった音がし、男はそこから跳躍して回避したようだ。
(後ろ!)
振り向きざまに電撃を放つ。一瞬だけ雷光が漆黒の中で迸り、相手の姿が――
「居ない!?」
否、居た。
だがそれは――。
「影身、です。俺自身が影になれば、切れないでしょう?」
「ち、そういうことか」
いつの間に取り戻していたか、槍がこちらへ飛んでくるのを視認したところで雷光は全て闇の中にかき消える。数瞬前まで春日の立っていた虚空をなぎ払った槍は、足音で避けた方向を読まれたか、そちらに向きを変える。
(影を斬る、ね――どうするか)
そんな事を考えていると、パキリという音がする。
それはまるでガラスを踏み砕いたような音。
「、」
自分が形成する世界の違和感を感じ、春日は一瞬気を取られる。
その一瞬の間に男はこちらへと駆け、そして
「影魔天侵」
闇――いや、この空間を影と認識したか、この世界の漆黒が全て彼に取り込まれる。今この空間は何も存在していない。視界は何も捉えられず黒を認識する。
目の前に見える、黒の中にある黒。それが彼の槍の先に集まってると悟った次の瞬間、それは炸裂しこちらへ幾千の刃となって降り注ぐ。
(おい、神殺し!)
『解ってる!』
幻萼を構え、そしてそれに炎をともす。闇の中に灯った光へと、影が向かい来る。
「神文、鉄火ァ!」
紅蓮の刃がそれを打ち消そうと放たれ、そして、
空間に罅が入る。
「俺の勝ちですね」
男は呟く。
「名前はカーナー=カザンスキー。性別は男、所属は……貴方の敵、とでも言いましょうか」
言いながら彼は自身の必殺を消してしまう。
「何を唐突に」
「覚えて置いてください。貴方がもし俺たちに立ち向かおうというのなら」
罅は広がっていく。
いや、罅と思っていたものは罅ではなかった。
……鍵穴。
『――まさか、パンドラ!?』
外から差し込む光が、空間を粉々に打ち砕く。
「貴方が今戦った俺は、時間稼ぎ程度に使われる実力だ、と」
光の差し込んだ世界へ、影としての身体から自分自身の身体へと戻した彼はそう言った。
その後方に居る人間は――。
「……章人か」
「えぇ。と言っても、最早彼に彼の意志は在りません」
カーナーは答える。
意志を奪う、それは恐らくは、上津章人の所有するソゥハイトであり世界であるパンドラボックス、その中へ彼の意識を閉じこめた。
つまり――。
「彼――、いや、『これ』はあの方の道具」
転移魔法陣がカーナーと章人の下に展開される。
和途が頭の中で騒ぐが、今から飛び込んでも無駄だ、と春日は一歩たりとも動かない。
「パンドラ、ですよ」
その言葉に反応するかのように章人はゆっくりと手元の剣を春日の方へ向ける。それは春日に向けられた剣か、和途に向けられた剣かは定かではないが、
「−−−」
彼が呟いたのか否かも解らない一瞬に、意識を刈り取られた。
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