第十一話 悪夢の所有者
「っていう事が在ったんだが」
「君も。その台詞が好きだね」
先程の出来事を言ってみると、夜宵にあっさり流された。真那にも言われた気がするんだが、何だろう、そんなに俺同じこと言ってるかな?
取りあえず、先程の騒動の後に窓から夜宵に呼ばれたため、さっさと室内に入ってきたわけなので、理由を聞いてみる事にする。
「で、何のご用事?」
「用件があるのは。彼女」
言って夜宵はフェルナヘレンを指す。少しうつむいているという事は何らかの後ろめたい事でもあるのだろうか。この子は感情がよく表情に出る。
「あー、えっと……」
口の辺りに手を添えながら何か言おうとしているのを見て気付く。
時間は夜、今夜は新月。今彼女が正気で居るのは半吸血鬼である故、か。
「血、か?」
はい、とフェルナヘレンが頷く。
成る程、ジャンゴの奴がトマトジュースで補えたのはどうやら月光仔の力を含めてなせることだったようだ。通常の半吸血鬼はどう足掻いても血が必要らしい。
ところで、何で俺の血なんだ?
別にそこらの怪物の血でも構わないのではないだろうか。
まぁ、良いと言ってもそれでそんなものの血を吸わせるつもりも無いのだが。
と考えていると、夜宵が口を開く。
「番外編参照」
何を言っているのか解らない。どっかの大宇宙から電波でも受信したのだろうか。
と言っている間にフェルナヘレンが頭を抑える。
「っと、発作か」
言いながら腕を差し出すと、おずおずと和途の手首に口を近づける。このまま狂気に身を任せるよりはさっさと血を吸わせて貰ってお礼でも言って終わりにすれば良いと考えたのだろう。
賢明な判断をしてくれて有り難い。既にオメガブレイカーを失えば俺もヴァムピーラとやらになる身なのだから、今更血を吸われても問題は無い。
かぷり、と。
注射だとかをする(と言っても春日から継承した痛覚だが)よりは痛みを感じるが、特に悲鳴を上げるような物でもない。……相手が化け物みたいな容姿で、吸われたら死にますよー、と言わんばかりの雰囲気を漂わせていたら恐怖で痛みが増加しそうだが。
それにしても、何か……長く、ね?
深夜、宿屋の屋根の上から少年が悶え苦しむ声が聞こえていたが、
場所が場所なので意外と誰も気付かなかったり。
「低血圧と言うべきか貧血と言うべきか」
朝っぱらからブルーな表情で宿屋の廊下を歩く。こんこん、と二度ノックする事は忘れない。夜宵から許可が下りたので部屋を開ける。
ガチャリ、
フェルナヘレンが無防備な姿で寝ていた。
バタン、
「どうしたの?」
「解ってて聞いてるね君」
やられた。まさか誰も夜宵がこんなひっかけを出すなんて思わない。
「ユニーク」
「そして自分のキャラ性を理解した上で発言してるね君」
そんな朝の風景はともかく、さっさと出発させて貰うことにした。まだ頭が多少ふらふらするが、まぁ問題はないだろう。
「和途さん、片目だけ紅いですけど……」
「あぁ、これは吸血鬼系統だとかは関係ないよ。後天性のオッドアイだ」
左眼が黒いのは和途が春日の派生個体だからであって、右目が朱銀なのは真那、並びにそのソゥハイトであるユグドラシルの力を吸収したためであることを、かいつまんで教えておく。
自分のせいで無いことを知ってフェルナヘレンがほっとした表情を見せる。が、その表情は直ぐに強ばる。
「右」
言われた方向に炎弾を飛ばす。
人影に向かってそれは飛び、命中を確信すると同時、それは黒い壁によって防がれた。
「……?」
疑問符を浮かべたその一瞬、黒い魔物達がうようよと湧いて出てきた。
「何でしょう、これ」
飛びかかったそれを一閃して切り捨てながらフェルナヘレンは呟く。
シャドウナイト? しかし、影の魔物が何故こんなところに?
基本的にこういうタイプの魔物は塔にでも出てくるのが定石だ。このようなところで見かけるものでは
「っち、」
空中に跳び上がり、自分の影に向けて障壁を展開する。
影が刃に変わり、そして自分を貫こうとし防がれる。
「ルナ、夜宵!」
雰囲気の変わった和途の声に、フェルナヘレンと夜宵がその意志を汲み取り跳ぶ。
二人が範囲から外れた瞬間、地面に這いずり回っていた黒い魔法陣が発動される。
黒い障壁が下から上へと、塔でも作り上げるように延びていく。
その中に和途と、敵らしき人間の姿が飲み込まれていった。
「これは……?」
フェルナヘレンが黒い塔に恐る恐る触れるが、入る事は出来ない。
恐らくは和途の魔術だろう。
「でも。アレは彼では無かった」
夜宵がぽつりと呟き、フェルナヘレンが不思議そうな顔をする。
「私たちがする事は。彼の相手」
言いながら、振り向いた先に居た人間は――。
「……暗闇か」
「ま、見たところアンタの能力は影みたいだったからね」
それは夜宵の言ったとおり、和途で無い和途。
「どっちかっつーと、そりゃ神殺しとは相性が悪そうだったから、な」
春日。
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