第十話 夜は平等に
「成る程、ね」
悠斗――と言っても、俺に戦い方を教えた世刻では無く、藤薙だが――が呟く。過去を引き出しから引っ張り出すという作業は、案外あっさりと終わった。
それにしても、ヒロインが攫われて助けに行く、というのは今時RPGでも余り見ないような設定の気がする。
悠斗が視線を俺の後ろの方に巡らせる。
「あぁ、二人なら宿で休んで貰ってるよ」
「おや、美人と会えると思ったんだがね、残念だ」
イセリアさんに殺されるんじゃないか? という俺の声に、悠斗は首を傾げて答えをはぐらかす。
さて、と呟くと同時に、紅い眼がこちらをじっと見据える。
「蒼銀の飛龍、ねぇ。また面倒な物を探している物だな」
「見た、のか?」
首を振る。振ってから、
「聞いただけ、さ。蒼い竜が東に飛んでいった、ってな」
それはどうも、と呟くと同時に、悠斗が立ち上がる。中身の無くなったコーヒーカップ(此処の酒場はコーヒーも取り扱うらしい。……酒場?)を店員が下げていき、悠斗が代金を渡している。
そのまま彼は酒場を出て行った。こちらに着く、だとかそういう物は無い。ただ、彼が敵になるなら和途は悠斗を殺さなくてはならない(殺せないにしても目的の邪魔にならない程度には負傷させないといけない)し、彼にとって自分が邪魔になるなら、彼は容赦なく和途を殺しに来る。
それだけの関係。
悠斗の与えてくれた情報以上の物は得られないだろうし、と和途は酒場を後にする。
出てから左右を見てみたが、案の定悠斗の姿は見えなかった。
こんこん、と二度ノックの音を響かせる。どっかの世界を大いに盛り上げるような団の部室(団室?)のドアみたいに開けたらパニック基殺害決定と言わざるを得ない気がした。
「和途だ」
「あ、入って大丈夫ですよ」
フェルナヘレンの許可が下りたのでドアを開いて入らせて貰う。夜宵はぽけっと窓から外を見つめていた。……ふむ、椅子で本を読んだりはしないのか。
(……春日は黙ったが、何か思考が毒されてきてるな)
これは早い内にミーシアを助け出さないと自分まで危ないかもな、なんて冗談めいた考えを浮かべていると、フェルナヘレンがこちらを見上げていた。
「どうでしたか?」
「東、だとさ」
ミーシアを攫ったのが親玉格の使役するっぽい竜と言うことは、フェルナヘレンの目指す人物もそっちに居ると言うことらしい。必然的に行動は共にすることになった。
方角だけを伝えると、夜宵が立ち上がろうとする。
「ああ、今夜は此処で泊まってから出る、休んでて良いぞ」
「……あれ」
ふとフェルナヘレンが部屋を見る。ベッドは二つ。
「ん? 俺は外で寝させて貰うから問題ないよ。凍死するわけでも無いし」
もう一つ部屋を取れば良かったのでは? とフェルナヘレンに言われたが、俺一人で部屋をどっかに取って他の客が入れないなんて事態はなんだか可愛そうだ。というか既にこの宿は満員だし。
かといって同じ部屋に寝泊まりするだなんて言ったら殺される。確実に。ミーシアを取り返した後辺りに。
夜も更け、宿の屋根の上。
「……寒いな」
凍死はしないが、寒い物は寒い。終焉を砕けると言っても、過程を砕くことは出来ないので、不便なのやら便利なのやら。
取りあえず火を灯す。真那から教わった魔術は、灯火として宵闇を照らした。ぼんやりと何か思考を巡らせようかと思った瞬間、
「……麗華?」
宿の入り口辺りに、少女が居た。いかにもな見た目のいかつい男達に囲まれている。会話は聞こえないが、どうせベタな会話だろう、気にしないことにする。
そんなどうでも良いことより気にするべきは、その少女が黒西麗華に似ている、という事だ。といっても顔の作りとかは全く違う。そう、まるで――佐上と春日のような。違う存在でありながら同じ存在という、根本的な、相似。
「あ、」
いかつい男が棍棒を取り出し、少女に振り下ろす。あ、というその声には、多少の哀れみが含まれている。
そしてよくある展開、その例に漏れず、
何があったかも解らないままに男は吹き飛ばされる。その子分っぽい見た目の奴らがそいつを抱えて何か言ってから逃げていく。憶えてろー、程度の捨て台詞だと予想する。
まるで何か運び終えたように、手を払い、そして少女はこちらを見る。
そして次の瞬間には屋根の上にいた。
「そんなに見つめられると照れちゃうんだけど?」
言葉こそ軽い物だったが、その言葉は伝えている。機嫌が悪いので何かしようって言うなら相手になりますよ、と。
「ごめん。ちょっと知り合いに似ててね。……名前聞いて良いか?」
「人に名前を聞くときは自分から名乗ったら?」
「それもそう、か。佐上和途だ」
一拍おいて、そしてその一拍の間に敵意がないことを悟ったか、少女は名乗る。
「憐奈。澤岻憐奈」
少女がそう名乗ると同時に、どたどたと足音が響いてくる。どうやらさっきの男達が増援でも呼んだらしい。
「あらら、また大量に。手伝おうか」
「大丈夫。……ただ、」
夜中の住宅街にこれはよくないわね、と言った直後、憐奈は宿屋の前に降り、それを視認して追いかけ始める男達を引き連れて何処かに行ってしまった。
あれは街の外の方な気がするが……。まあ、殺しはしないだろう。
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