第七話 宙に点る灯、刹那の残光


 ゆっくりと、春日和途は起きあがった。
「あぁ、眼が覚めたかい?」
 右手に花瓶が置いてある。珍しいな、コイツの付近に華が在るなんて景色、見たことない。そんなことを考えながら、和途は話しかける。
「悠斗、此処は何番目だ?」
「七九一五二番目」
 そう一言だけ答えると、悠斗は床に放り捨てられているバッグを和途に向けて放り投げる。
「お前がさっきまで必要としてた道具だよ」
「はっ、前の記憶も蘇生したので復習にしか使えませんね」
 言いながら鞄を一瞬で焼き尽くし、先ほどは行く予定で在った学校の制服、その内ポケットを探り、煙草を取り出す。
「吸っても良いか?」
「別に構わないさ、臓器の一つや二つ、幾らでも再生出来る」
 その返答を聞くと、煙草を口に咥え、同じくポケットから取り出したライターでその先に火を灯す。煙草の先端が灯りを持ち、薄く煙が上がり始める。
「うぇ、やっぱ苦いな」
「なら吸わなくても良いんじゃないか?」
「いやなに、ただのカッコつけさ」
 しゃべる度に煙草とその先端の灯りがユラユラと揺れる。煙草を加えたまま、右手を握ったり離したり、を繰り返している。
「ふむ、『力』はちゃんと使えるようになってるんだね」
「あぁ。『別』のお前とリンクしたんだ、それくらいは容易いさ」
 悠斗がそう答えると同時に、ガチャリとドアが開いた。はぁ、と悠斗が一つだけため息をつく。
「人の部屋に入る前は、ノックくらいするべきじゃぁ無いかい?」
「あら、お姉ちゃんが弟の部屋に入るのにノックは無くても良いでしょう?」
 恐らく良くないとは思われるがそれをツッコんだら負けなのだろうか、と考えながら和途が口の先で灯りをユラユラとさせて遊んでいる、と、ふと思いついたように、
「あ、お邪魔してます」
 ベッドから起きあがった状態のまま言いながら一礼。この『春日和途』が部屋に入ってきた黒ドレスの女性――イセリア・クイーン――と出会うのは初めてだ、とりあえず挨拶ぐらいはするべきだろう。
「あら和途、お久しぶり。いえ、初めまして、かしら?」
「えぇ、初めまして。一応俺は初対面ですね」
 此処だけ聞いているととてつもなく奇妙な会話だが、そんな事は気にしない(というか当たり前)当の三人はごく普通に会話を成立させている。
「さて、和途、いきなりだが出陣だ」
「相手は」
「電霊」
「おいおい、そりゃ真那さえも今までは戦闘経験無いじゃないか」
 リンクされている全てのデータを漁ってみるが、今まで繰り返された世界の中で、俺が、真那が、リンクしている全てが、電霊と衝突した回数――ゼロ。
「何、一応お前もペルソナが使えるんだ、ボクの集団程度なら狩れるだろう」
「いつもなら悠斗が一瞬で消してくれるんだけどね」
 ペルソナ、和途側の世界で言うなれば、ソゥハイト。魂の根底に在る、力の象徴、とでも言うべきだろうか。これを文に纏めることは、残念なことに作者では不可能だ。
「なるほど、練習台、って事か」
 煙草を右手に持ち、灰をとんとん、と下に落とす。落ちていく灰は、床に着く前に宙へと霧散する。同時に煙草の火が一瞬で消え、煙草自体も消えていく。
 煙草の箱とライターを制服の中に入れると、それを羽織る。学校に行くわけでもないので、制服のズボンの中に規則上入れるようになっていたワイシャツを外に出し、不良気取りの痛い少年スタイルになる。
「ボタン一個だけ止める、とかやってみようか」
「やめておけ、それが格好付くのは二次元だけだ」
 それもそうだな、と一言呟いた後、制服を翻して、和途は部屋を出て行った。悠斗とイセリアの両名は、窓から東――電霊ボクの集団がやってきている方を見る。
 数分後、窓から遙か下、一つきりの小さな、今にも消えそうな人影が見える。どこからどう見ても無謀にしか見えない。だが、彼らは、
「まずは適当に行ってみるか」
 全てを超越する存在、何ら問題は存在しない。一瞬の斬撃でボクの集団の一部が纏めて吹き飛んでいく。が、それは消えることなく、文字通りゾンビの如くもう一度起きあがる。
「ゾンビがゾンビ化した……いや、意味解らねぇな」
 一言だけ呟くと、ライターと煙草を取り出し、もう一度煙草を吸い始める。箱の中に在る煙草は、計二本(それ以前の物も含めると更に多い)は無くなっているはずなのだが、其処には箱一杯に煙草が入っていた。魔法に近い物でも使っているのだろうか。
 その煙草を吸いながら、一言だけ呟いた。
「吹き飛べ」
 言った瞬間大きく息を吸い込み、煙草の灯りが大きくなる。それと同時に煙草の先端が灰へと変化し、同時に、電霊の集団も爆発により吹き飛び、灰化した。
 ゲホゲホ、と咳き込みながら煙草を右手で取り、腰の辺りまで降ろしてから深呼吸する。どうやら、煙を思い切り肺に入れてしまったらしい。とんとん、と灰を落としてから、
「ボクの集団相手だから良いが……力の使いすぎは良くないな」
 己の戦いを、一言だけ評価した。
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