第三十一話 全てを、終わらせよう
「努炎」
一閃と共に紅炎が飛び、だがそれは何千倍ものソレとしてそのまま返ってくる。
「っうお!?」
目の前に漆黒の障壁を展開しそれを防ぐ。ミシミシと音を立て、幾千という紅炎を受けきった後、ガラスのようにして砕け散った。
「んー、そゆ事か」
シュヴルツを構えながら卓斗が呟く。
「『全ての世界』を相手にするんだから、これも当然だよな」
つまり。幾千という世界の樹形図をそのままデータとして放たれるラグナロク、それに打ち勝つためには、その幾千という樹形図を通った全ての存在――、その中には、無論幾千という自分が存在する――。
その全てを、打ち砕かなければならない、という事。
「なんだその酷ぇ展開は」
砕け散った黒い障壁を再び黒炎として幻萼に纏わせ、和途は漆黒を纏う大剣となったソレを構え直した。
「爆刺突!」
グサリと、ラグナロクに爆炎が杭として突き刺さり、そしてそれが炸裂する。が、何事もないかのように、其処には1と0という数字が、淡々と浮かんでいる。
「っち、」
舌打ちすると同時に、義和の後ろから宏邦が飛び出す。見えないその武器を構えながら宏邦は叫ぶ。
「劫火!」
それは巨大な塊となってラグナロクへと放たれる。1と0の数字によって構成された光の帯がそれへとむかって蠢くようにして止めようとする。が、止まりはしない。
「参!」
雄叫びと共に、巨大な爆炎が辺りを包んだ。爆風によって義和と宏邦は共に吹き飛ばされたが、爆発による熱などのダメージは全て将也によって無効化される。
「っはぁ、なかなか奴さんもめんどくさいねぇ」
将也があきれたように溜息を吐く。
ラグナロクは、未だ傷一つ付かない。
存在するか、存在しないか。それすら曖昧で、一瞬にして砕け散りそうな物。
「さて、そんな在るか無いか解らない様なソレを、君は斬れるか?」
章人が不敵に笑いながら悠斗へと問う。が、それを全く意に介さず、悠斗は剣を構え、そして章人の持つ剣と交差する。
交差したその一瞬の間に、ジャンゴが章人へと飛び込む。神剣グラムが唸り、白い輝きが尾を引きながら、章人へとソレは叩き付けられる。
「効かないんだ、ってば」
相も変わらず章人は無傷。……否、与えたダメージが次の瞬間には全て蘇生しきっているのだ。
「ソレのカラクリ自体は解ってる、ってのがむかつくな」
トントン、と剣を自分の肩の辺りで動かし、そしてまた構え直す。結局、カラクリ自体は単純な物なのだ。章人はラグナロクを吸収し、そして自らが世界のバグであるファンタズ・フラグメントとなった。つまり、ラグナロクは彼のソゥハイト。
彼が生きていればソゥハイトであるラグナロクは瞬時に復活し、ラグナロクが存在すればそのソゥハイトである章人のダメージも瞬時に回復する。
「ま、両方同時なんて途方も無い話だよね」
呆れたようにジャンゴは呟く。しかし、その顔は笑っている。
「……それでも、負ける気がしないのは何でだろうね、悠斗?」
今まで繰り返された何千回で、何千回と出会った悠斗へ、ジャンゴは語りかける。
「そりゃ、簡単さ」
バキ、と悠斗の右手が啼る。そして次の瞬間に加速し、章人をその右手で貫く。紅い光が其処からボロボロと漏れだし、そして、
「負けないからだ」
紅の爆発が、荒廃した世界を染める。
「全絶焔!」
「大太刀!」
震電と凌の一撃が、ラグナロクに直撃する。と、
「……怯んだ!?」
義和が叫ぶ。確かに、ラグナロクは怯んだように見える。今の今まで、一瞬たりとも動じることの無かったソレが。
怯んだ、というその一瞬に、それぞれがそれぞれの一撃をたたき込む。当たった先から、ラグナロクのデータが削れていく。1と0だけで表示されていたソレにノイズが走り、そして中心にある人物が見える。
「……章人」
和途が眼にしたソレは、間違いなく上津章人。ラグナロクを自身のソゥハイトとし、また自らをラグナロクのソゥハイトとしたファンタズ・フラグメント。
最高に最強に最凶な、世界の、バグ。
アレが、ソゥハイトであるならば――。
「終わりにしてやるよ、章人……!」
幻萼が白く光ると同時に、ラグナロクはまた怯む。
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