第三十話 謳を、詠おう
もう一度、天泣が章人の脳を貫く。そして離れた瞬間、章人は一瞬にして再生する。ち、と悠斗が舌打ちした瞬間光の帯が真っ直ぐに悠斗を貫こうとする。
が、ズガン、という銃声と共にそれは貫かれ、章人は下に目線を移す。
「……貴様如きに用は無い」
「君に無くても僕には在る」
ジャンゴが言った瞬間、周りにいる電霊達が、元であった人間の形を取り、襲いかかってきた。和途が置いていったグラムを手に取り、ジャンゴは深呼吸する。
「……済みません」
そして、唯一言、謝る。ジャンゴを電霊が浸食しようとしたその次の瞬間、ジャンゴは、非常なる存在となる。
二度と戻れなくなった、ヒトで在った者を救うために。自らも、ヒトで無い存在へと変化して。
一瞬にして襲いかかってきた電霊の後ろに回ったジャンゴは、紅いその瞳を煌めかせ、そしてグラムにて電霊を一閃する。
「……『殺します』」
それは、正しく、絶対的に、『死』の言葉を紡いだ。
「っ、震電!」
ゲートを通った先には、震電を始め、凌に卓斗、総司に宏邦……。簡単に言えば、全員揃っていた。
「和途か」
震電が笑った。メチャクチャ珍しい事ですね、などと感心したりした後、和途は我に返って、震電に状況を説明する。
元々語学力が無い(この辺りの怒りは一応学校に通っていた筈の春日に向ければ良いのだろうか)為に多少時間はかかったが、仕方がない。
「成る程?」
凌がにやりと笑う。
そして次の瞬間、和途達の後ろに、新たなゲートが出現する。それは容易くその門を開き、和途達を招き入れようとする。
和途がまずそれに飛び込み、震電、凌と続き、全員がゲートへと飛び込む。悠斗は和途に言った、自分がやる、と。
そして俺は、俺達は、悠斗に任された。そう、今目の前にいる――。
ラグナロクの『データ』をぶち殺す、って事を。
やることは既に解ってる。なら、後はそれをやるだけ、という事だ。至って単純。
「来い」
呟く。それと同時に、和途の手に、刃が長く、柄の短いナイフのような短剣が収まる。それをひゅんひゅんと、動作を確認するように振り回し、そしてラグナロクに矛先を向ける。
「幻萼」
夢を紡ぐようにして、装飾の無い白い短剣は唸る。
それに反応したかのようにして、0と1の数字だけで表されたラグナロクのデータが起動される。今この場に集結したファンタズ・フラグメントというウィルスに対するプログラムを即座に制作し、そして放つ。
「はい、相殺」
しかしそれは麗華の放った砲撃によって存在を湾曲させられ、消える。が、次の瞬間に、麗華の体中から血が噴き出す。
「……っと、そう言えば私死んだっけ」
あっさりと、何も感じないかのように言った瞬間、痛みは飛ぶ。血さえも消え、その傷が無かったことにされるかのように。
「全く、ちょっと前に戦った人間を助ける事になるとはね」
言いながら総司が飛び出す。二つの手に握った剣が蒼く輝く。
(それにしても、まさか此処まで来て能力変化が起きるとは、ねぇ……)
元々総司の能力『空円』は『痛みをストックし、別の物に移す』能力であったはずなのに、今この瞬間、麗華の場合は傷さえも消滅した。恐らくそれも痛みと共にストックされているだろう。
ぼんやりとそんな事を考えたが、直ぐに気づく。あぁ、そうか、と。
それが奇跡って物だね、などと。
「昨日の敵は今日の友、ってね」
全てを見透かすようにして目線を一瞬こちらに向けたかと思うと、麗華はラグナロクへと向かって跳躍する。
「……そして明日の敵、だなんてならない事を祈りますよ」
「ラグナロクの『消滅』の原理は、世界の全てを理解した上で起こす分解だ」
「何処の錬金術だ、って話か」
宏邦の言葉を聞き、直ぐさま将也が反応する。実際、宏邦は第一次崩壊(と震電は言ったが、その表現が正しいかどうかは解らない)を目の当たりにしている。
参考にはなるデータの筈だ。
「成る程?」
そして二人の聞いた義和が一人頷く。
「なら、二人は僕の援護に回ってください」
普段なら将也辺りが何か言うような所だが、案外二人はあっさりと義和の援護に回る。義和に飛ぶプログラム達を的確に破壊していき、そしてラグナロクまでの道を開く。
(これが、データであり、世界を理解した上で壊すなら――)
林佳が――彼らがファンタズ・フラグメントである理由が――義和の後ろへと現れる。それを確認するように、義和は流光を構える。
(未知の物質によって精製された、データの塊……機械である僕が、コイツに対しては適任だろう)
それはあくまで彼が冷静に分析した結果であって、何の根拠もない物では無かった。故に、将也も宏邦も、彼に従う。目の前にいるソレは全く未知の存在、ならば、その場で考え得る最上の一手を放つまで。
「お前と組むのも久々だな」
「悪いな、長く生きすぎて、忘れてしまったよ」
凌と震電が、背中合わせになって剣を構える。蒼き焔と雷の帝。双方が双方の全てを持って、目の前のそれを打ち砕く為に動き出す。
光が震電を襲うと同時に、彼の瞳は黄金に染まり、一瞬にして光は打ち砕かれる。
「邪魔くさい」
凌が退屈そうに、脇腹へと手を伸ばす。虚空を掴んだかに見えたその手には、真っ赤な槍が握られ、そしてそれを脇腹から引き抜く。
漆黒の刀と深紅の槍を携え、蒼き焔は跳ぶ。
二人がその手に持つ刃を振るった瞬間、蒼き稲妻は、虚空を駆ける。
「和途!」
トン、と跳躍し、卓斗が和途の元へ辿り着く。
「よぅ、卓斗」
春日であり佐上である、和途というその存在は、それが当たり前であるかのように白い短剣を構える。同じようにして、卓斗も大剣を構える。
「お前は……、誰だ?」
哀しみの混じったような笑みを浮かべながら、卓斗は和途に問う。
ん? と疑問符を頭に浮かべると同時に、和途は、自分がかけている眼鏡を、灼熱によって消す。ポケットの中に入れていた煙草も投げ捨て、それと同時に消滅する。
「春日でも佐上でもない。俺は『和途』だよ」
そう応えると同時に、幻萼が唸る。それはまるで、謳でも詠うように。
「そうだな……」
幻萼を構え、そして卓斗はシュヴルツを構える。幾千回と言う人生を共にした彼らは、今、全く違う彼らとして、出会う。
「謳詠とでも、名乗ろうか?」
「幻想を謳う詠い手、ってか? 変わらないな、お前も」
1と0を切り裂く戦いが、始まる。
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