第二十九話 下らないこの世界で
さて、降りたって見れば其処は電霊達のど真ん中。短剣は折れた。目の前には知らない知人。
「やぁ、ジャンゴ」
「君は……和途?」
正確には違うかも知れないけど、まぁそうだな、と和途は笑う。それは大分頼りない笑いで、でも確実にそれは彼が其処に居る証拠。
折れた短剣を投げ捨て、グラムを構え、そして和途は電霊達の中へと飛び込む。それと真逆の方向へと、双つの銃を構えながらジャンゴも飛び込む。
飛び込んだ中央から電霊達が消滅してゆく。それは斬撃であり銃撃であり、浄化であり滅却である。
薙ぎ倒すようにして進んでゆく。舞うようにして周囲を電霊達の死体が囲み、そして紅蓮の炎の中で果ててゆく。踊り狂うようにして進むその視界に飛び込んだのは、
「悠斗!」
叫んだ向こう側に、紅と黒が舞っている。それはピタリと動きを止めるが、電霊達は襲いかからない。それが何故かなど、知るよしも無いが。
ただ冷徹に、佐上和途という一人の存在が生き残ったことを確認するような目線で和途を見た後、空を見、そして悠斗は呟いた。
「世界が……目覚める」
言うと同時に、電霊達が咆吼を上げる。それが大気をビリビリと振動させ、そして和途の鼓動を早める。
「電霊ってのは、プログラムなんだよ」
誰に言うでも無く、悠斗は語り始めた。じりじりと躙り寄る電霊達にグラムの切っ先を向けながら、和途はその話を聞き入る。
「俺達っていう、世界が創り出してしまったバグ――『ファンタズ・フラグメント』を処理するための、な」
幻想の、欠片。
つまり、俺達、ソゥハイトやペルソナを扱える存在――ファンタズ・フラグメントとか言うらしいが――は、世界が生み出してしまった幻想であり、そして世界というシステムに異常を来すバグ。
だが、ならば、何故電霊は、ファンタズ・フラグメントでない普通の人間達を狩る必要がある?
疑問に思った和途は、深い思考、その奥から自分でない自分が警告を発する。そして残酷なほどに黒い殺気が和途を押しつぶそうとし、見上げた先に居たのは、
「……、章人……!」
「やぁ、久しぶりだね。……いや、初めましてと言うべきか、『和途』?」
自分の手でその心臓に十字架を突き刺した、かつての自分の、友。
次の瞬間、再び空が割れる。
割れたその空から顔を出したのは、巨大な一つの、核。それは、間違いなく、全てを破壊する絶対成る終焉――。
「ラグナロク……」
いつの間にかこちらへと来ていたジャンゴが、呟く。三人の目線の先にある世界の核、それは、全ての存在の全ての記憶を手に入れ、そして全てを破壊する、世界そのもの。
その終焉はただ一つの大樹を除いて何もかもを滅ぼし、そして新世界へと歩を進める。
「『放て』」
章人の呟きと共にラグナロクが神々しく、そして禍々しく光を発する。それと同時に、電霊達が姿を変えてゆく。その姿はまさしく、
「……っ、人間……!?」
「それはそうさ、『電霊と化す以前、人間だった頃のデータ』を、プログラムに組み込んだ」
冷徹に、そして冷酷に章人は呟く。人間となった電霊達は、目の前に生き残ったファンタズ・フラグメントを抹殺するために、動き出す。
最初に、ガタイの良い男が、黒い剣を構えて飛びかかってきた。戸惑いを隠せないジャンゴと、どうにか受け流そうとする和途、そして
一閃にてソレをあっさり切り捨てる悠斗。
「な、悠斗……!?」
「所詮データだ、最早それは本人じゃぁ無い」
同じように、冷徹に、そして冷酷に悠斗は言の葉を紡ぐ。だが、その目は、ゆらりと揺れる蒼い炎のように鋭い。
そして次の瞬間には、天泣が章人の脳天を貫いた。稲妻がゴゥ、と轟き、一瞬にして章人は消えていった。
「あー、痛い痛い」
が、一瞬にして、まるでビデオを逆再生したかのように章人はその場所にその形に、戻る。そして身の丈に合わないとてつもなくでかい大剣を背負い、そして振り下ろす。
「下らないな、世刻悠斗。何が故に其処まで下等生物に拘る」
衝撃波が生まれ、そしてそれを悠斗は何事も無いかのように見上げている。衝撃波が悠斗を襲うかと思ったその瞬間にそれは消える。
「僕と共に来い。君の存在は非常に貴重だ、僕と共にシンセカイに……」
「それこそが下らない、と何故気付けない」
咎人の剣を自身の横に突き刺し、そして悠斗は言葉を紡ぐ。
「残念な事に、俺とお前じゃぁセンスが違うらしいね」
威圧し、そして咎人の剣を手に取る。それを見ながら、交渉決裂、と言わんばかりに、章人も其処にある大剣を手に取る。
「たった一つの大切な物を護る、その為に俺は力を持つ」
もう一度、天の涙を、構える。その全てを、視線の先にいる、電霊の王である、一と零の間に存在するラグナロクのデータさえも浸食した正真正銘のラグナロク――、
――上津章人へと、ぶつける為に。
「殺したくなるほど狂おしい感情さえ知らずに世界を手に入れられると思うな、餓鬼」
――こっちは俺がやる。
和途の脳内に、そう声が響いた。それは間違いなく悠斗の物であり、そしてその言葉に含まれた意味も一瞬にして和途は察した。
(これの為に、俺の中には俺が居て、真那が居るのか)
自分が生まれた理由も、そして自分が自分をどうして生んだのかを、自分が憧れた幻想はこの為に死んだのだと。
全てを理解し、佐上和途はゲートを通る。
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