第二十六話 見えない空に想いを馳せて
「オオオオオオオオ!」
咆吼と咆吼が激突する。腰まで届く白銀の長髪、灰色の面から覗く紅銀の両眼、闇よりも深い黒の肌。
そしてそのバケモノと対峙するのは、漆黒の左翼と、純白の右翼を持った、
バケモノ。
「獅子嚇」
ベゴン、という音と共に地面が凹む。同時に悠斗の周囲を囲むようにしていた電霊達がまとめてべしゃんと潰される。
悠斗の後ろで舞うようにして其処に居る黒いドレスの女の影は、彼が其処にいる証であるように見える。
そしてその影を背負いながら、悠斗は舞うようにして戦い続ける。周りを取り囲む電霊達が、いとも簡単に吹き飛ばされ、そして塵となり消えてゆく。手応えがまるでない、とでも言いたげな表情、だけれどその表情はとても楽しそうで、そして邪悪。
そんな舞を見せる悠斗を見、そしてジャンゴは懐に在る二丁の属性銃を取り出す。対になる双つの銃、太陽銃ガン・デル・ソルと暗黒銃ガン・デル・ヘル。その双つの銃は元々一組であり、そしてこう呼ばれていた、双対銃――。
「ガン・デル・イクス」
紅いマフラーを靡かせながら、ジャンゴも、舞うように悠斗の下へと降りてゆく。
地獄のような漆黒の中で、如月総司は目を覚ます。確か自分は黒西麗華を殺し、そして最期に彼女のソゥハイト、メフィストの暴走による無魂で跡形も無く消し飛んだはず――?
だが、確かに総司は其処にいた。痛みも無く、そして武器も手元にある。ネウルの感覚も身の内に感じ、そして自分が此処に居ても特に問題が無いであろうことに気づく。何故かって、黒西麗華が、彼自身の横に居たから。
此処が死後の世界というならばそれで充分だろう。実際そうなのかも知れない。ただ、漆黒の向こうに、真っ白な扉が見えた。
総司は、それを見たことが無いはずで在った。だが、直感で悟る。この漆黒の世界、其処から一つだけ外れたように其処に浮かぶ白い扉。
「……ゲート」
言うと、横で死んでいた麗華がゆっくりと起きあがる。ただひたすらにその瞳は、無垢な子供のようにして、ゲートを見つめている。そんな麗華を見て、総司はゲートへと歩みを進め始めた。ゆっくりと、自分の体を確認しながら麗華も立ち上がり、そして総司と同じように、ゲートへと歩み始める。
遠目に、様々な光景が見える。アレは何だろう? そうぼんやりと考えながら目を懲らした先に見えてきたのは、向こう側からゲートを目指す晶波卓斗の姿。ゲートの前で、二人話している、山城震電と、八月朔日凌の姿。
漆黒と純白をはためかせ、黒い鬼を受け止めるバケモノ。そしてソレと鬼が弾き合い、互いが互いに見えない壁に激突する。その瞬間に世界が切り替わり、空の中へと二人は飛び込む。
白だけの世界ではなく、空があり、雲があり、そして森がある。ただ、自分たちが、其処に見えない床が在るようにして其処に立つだけ。見えない壁から互いが互いに離れ、そして互いを切り裂こうと近づく。
だんだんとバケモノからヒトへと戻ってゆくその二つの姿は、紛れもなく『和途』だった。
(っな……!?)
和途が絶句したその瞬間、もう一人の和途が透明な長剣を和途へと向けて振り下ろす。思考を一旦強制的に停止させ、そして腰から短剣が飛び出、長剣を抑える。短剣に罅が入り、ミシミシと嫌な音を立てる。
「どうした、『佐上和途』」
悟った。今の一言で、コイツが誰なのかが、解った。同時にソレによって、和途が吹き飛ばされる。漆黒の刃が続けて襲い、そして再び和途が飛ぶ。
見えぬ壁に叩き付けられ、そしてそのまま宙の地面に伏す。そこから両腕を使ってどうにか起きあがり、そしてゆっくりと短剣を構えた。
「そうか、テメェか……」
二人の和途の後ろに、機械仕掛けの漆黒の翼と、銀髪朱眼の、歪んだ影の男が現れる。それは彼らの幻想であり、仮面であり、そして、
「『春日和途』!」
彼らが紛れもなく『和途』という存在である証。
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