第三幕【唯一つの僕達】
テーマソング、Yae「カゼノネ」
第二十五話 終焉後の世界
ジャンゴは、自らの腕でゲートを押し開けていた。その向こうに広がっていたのは、
「……悠斗、何なんだ、これは……?」
廃れきった、世界。枯れた木だけがぽつぽつと並んでいる。地面は黒く染まって、空は灰色。何もない、と言わずしてなんと言えば良いのだろうか。
何もない其処の向こう、何かが見えた。ジャンゴが目を懲らした先に見えてきたのは、
「電霊……!?」
言ったジャンゴの真横を、飛び出すようにして悠斗が舞う。ふわりと電霊の群れの前に降り立ち、そして咎人の剣を抜く。
「さぁ、踊ろうか」
悠斗の後ろ、影が這い上がるようにして、彼のソゥハイトが姿を現す。それは間違いなくゲートの管理者である、黒いドレスの女。
「イセリア=クイーン」
佐上和途は、独りきりの空間で目を覚ました。何も見えない、否、白いだけで有り、其処には何もない、故に何も見えはしない。
起きあがると、その瞬間に背後から殺気を感じる。咄嗟に腰に着けてあるホルダーから短剣を取り出し逆手に持つ。そして持ち替える事も無くそのまま後ろを向き、袈裟に一閃する。
そしてその短剣は、鬼に抑えられた。
「――っ!?」
次の瞬間には短剣を鬼から離し自分の正面に構える。が、其処に襲いかかってきた黒い右腕の一撃は到底防げはしなかった。
勢いよく飛ばされ、見えない空間の果てに激突する。激痛を感じる間もなく鬼は再び襲いかかり、そしてそれを防御する事も出来ず、また横へと吹き飛ばされる。
追撃に備えようとしたが、鬼は追ってこない。ぺっ、と血をそこらに吐き捨てる。白い世界に、点々と紅色が浮かんでいる。一つの箱の中に閉じこめられたかのような感覚。
「全部血で紅に染めろとでも?」
言いながら短剣を構える。短剣から炎が伸び、それは紅蓮の長剣と化す。一瞬にして鬼の正面に現れた和途が、真横に長剣を一閃させる。
「舞紫電!」
魔法陣を切り裂き、稲妻の一閃が鬼を断ち切ろうとする。が、それもまた黒い右腕に押さえ込まれ、そして無効化される。
「オオオオオォォォ!」
遠吠えが殺気に変わり、そしてそれが真空の刃へと変化し、和途を襲おうとする。ち、と舌打ちしたあと、長剣を一閃させ、それを長剣とさせていた紅蓮を刃として放つ。真空の刃と紅蓮の炸裂がぶつかり合い相殺する。
爆発した煙の中に両者が飛び込み、そして煙の中から弾き合って放り出される。
狂気の入り乱れる白と紅の世界で和途が感じたのは、
この上ない、快楽。
鹿部宏邦は、何一つ存在しなくなってしまった世界樹に独り立っていた。頂上まで登ると、其処にはまた、何もなかった。
遠くを見ると、神々しいほどの光が世界全体を包むようにして走ってくる。それは光であり、同時に、死であった。
それは、唯一つの絶対なる死への道。ラグナロク。
迫り来るラグナロクを見続けながら、宏邦は呆然と、ただ其処に立ちつくしていた。死んだはずである自分が何故此処にいるのか、それさえももうどうでも良い。
万物は、後数秒で消え去る運命に在るのだから。
世界を光が包み、そして終焉が訪れるであろう感覚の中に、宏邦は見た。唯一つの扉を。そしてその向こうから伸びる手。誰の物かも解らないまま、宏邦はそれに手を伸ばす。
掴んだと同時に、扉の中へと引きずり込まれる。
そして、世界は崩壊する。
「擬似的なラグナロク?」
「あぁそうだ、あれは人為的なラグナロク」
だが、と震電は続け、凌はそれに聞き入る。ジャンゴが通っていったゲートは閉じたままであり、未だ開く気配は無い。
もしかすれば、自分たちは永遠に此処の中である。が、それもまた一興であるか、という考えさえも持てる彼ら。
「アレは起きる事が決まっていた。つまりは……第一次崩壊と言った所か」
「で、何だ? 二次崩壊――、というか、“本命”を叩くこと、が目的だった訳だな」
さぁな、と震電は呟いた。そしてゲートに視線を移し、その先にいる何かを見るような目で、こう言った。
「アイツが本当に夢見ている事なんて、俺たちには解らないさ」
効果が無い。全ての攻撃が無効化される。ユグドラシルも、ゼロも。万物を無視する神殺しの力でさえ無効とされる。
何一つ効きはしない。短剣も悲鳴を上げ始めている。かれこれ二年は使ってきたが、ごく普通の短剣が、人ならざる者との戦いで、ここまで持つ方が凄いという物だ。
時間がない、そう判断し、短剣を収める。そして、自らが、目の前に居る鬼と唯一対等に戦える、その手段を使う。
「お……おおおおおおおお!」
自身の体が、目の前に居るそれと同じように変わってゆくような気がした。目の前に鏡を置く、そんな感覚。
今、もしかすれば自分は目の前に居るそれと全く同じかも知れない。違うかも知れない。ただ一つ、分かり切った事は。
自分が、間違いなく、決定的に、正しく、“バケモノである”という事。
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