第二十四話 生と死の輪廻


 何もない世界で、僕は何かを待ち続けていた。半分がニンゲンで、半分がバケモノで。何者でもない半端な僕は、
 何を待っているんだろう?


 紅と黒は舞っていた。血に塗れながら、互いを傷つけながら。背景に一つだけ浮かぶように其処にあるゲートは、神々しき光を纏いながら、未だに開こうとはしない。
「さて、終わりにしようか、イセリア」
「……えぇ、そうね、終わりにしましょう」
 名残惜しそうに、ゲートの管理者は笑った。悠斗も込み上げるような笑いを、顔に浮かべる。そして、白銀の杖が煌めく。
 本来のイセリア自身が、後ろに、影が其処に立体として現れたかのように、存在し始める。悠斗が咎人の剣を鞘に収め、そして右手を構える。その眼は、血さえも見劣る、透き通った紅色。
「女王乱舞」
 言うと同時にイセリアが飛び出す。悠斗に一撃が迫り、そしてそれは当たれば悠斗を確実に殺す、秘技。
 だが、それさえも、悠斗は乗り越える。
 イセリアの腹部を悠斗の右腕が貫き、彼の目と同じような、空さえも染めるような紅色が世界樹全体を包むように炸裂する。
 紅い、衝動。


 貫かれた腹部は塞がっている、だが、悠斗の側に横たわるイセリア=ウェンズディは、確かに死んでいた。その頬に悠斗の手が触れる。そして、触れた所から、紅い光となって、イセリア=ウェンズディは消えてゆく。
 何もかも消えて無くなり、誰もいなくなった世界樹の中、悠斗は呟いた。
「さよなら、イセリア=ウェンズディ」


 暗闇の中で、沈んだはずの太陽は、その瞳を開いた。ふと違和感を憶え左頬に触れると、其処には兄の頬にあった筈の傷がついていた。同じように、左眼の上の傷も。
 自分が兄と一つになった事を今一度確認し辺りを見渡すと、見たことのない、見覚えのある人達が居た。
 皆死んでいるようで、動く気配も無い。ただ、暗闇の向こう、一つだけ動いている者が居た。
「……震電……?」
 呟くと、そちらへと向かい走り始める。震電は、幾多の電霊と戦いながら、其処に見える扉をこじ開けようとしていた。既に体中は傷まみれで、滴る血も止まりはしない。
 死んだ向こう側で、このニンゲンは更に死のうとしているのだろうか?
「っ、ジャンゴか!」
 交戦しながら後ろを向き、震電が言う。言われたその瞬間にジャンゴは走り出し、そして懐に持ったままである太陽銃を手に取る。
 トリガーを引くが何も起きはしない。全てが消える闇の中。太陽の力をエネルギーとする太陽銃を使えないとしても無理はない。が、それ以外の武器をジャンゴが所有していないのもまた事実。だが、
「ジャンゴ!」
 震電の声と、その視線の先に気づき、ジャンゴは其処に手をやる。其処には、良く知った一つの武器があった。
 自身の兄の武器――。
「ガン・デル・ヘル!」
 ソレを取り出し電霊に向かって数発撃つ。全てがすり抜けて当たりはしない。それもそうだ、ジャンゴは電霊を『斬る』概念を持っていない。だが、電霊共の気を引く事くらいは出来る。
 電霊達を誘導し震電から離しながら、ジャンゴは暗黒銃を撃ち続ける。此処は完全な闇の中、暗黒の力が途切れることなど有り得ない。
 震電が扉に手をかけ、そして開けようとするが、扉は一向に開く気配を見せない。だが、震電は尚扉を開けようとする。
 何故かって、悠斗の目的は其処であるから。彼を簡単に裏切る程、自分と彼の因縁は浅くない。この間にある信頼も、そして同時に存在する戦闘心も。


 悠斗が、咎人の剣を上へと掲げる。そしてそれを真っ直ぐ、迷い無く振り下ろす。その斬撃は衝撃波を生み、世界樹の最下層へと向かい落ちてゆく。
 そしてその一撃が、いつの間にか最下層に墓標のように刺された白銀の大剣に直撃しようとしたその瞬間、沈んだ太陽が、また昇った。
「明日もまた日は昇る。……って言えば、格好つくかな?」
 白銀の大剣、グラムをその手にした少年の名は、
 ジャンゴ=イザヴェル。
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