第二十三話 紅と黒
総司は、足下に転がる麗華の死体を見ながら、呟いた。
「困りましたね。……これも運命とか言うモノでしょうか」
如月総司は、一片の迷い無く、全ての痛みを使い、黒西麗華を殺した。足下に転がった死体が何よりの証拠。
だが、総司は絶対的に死から逃れられない状況へと追いやられていた。麗華が死ぬその瞬間、メフィストが咆吼した。
それと同時に、彼女の周囲一体が、歪な世界へと変貌を遂げた。言うなれば、彼女の秘技である無魂、それが全ての方向から徐々に徐々に世界を歪めながら総司へと近づいてくるのだ。
既に麗華の死体の足の部分は歪みに干渉され、消えて行き始めている。死よりも辛いとも、死んだ者は言えるかも知れない、死へと向かうしか無い状況。
そこに独り立ちながら、総司は呟いた。
「ゲート、か。……興味は在ったんですがね」
歪みに干渉された、世界樹の一部が消えていった。そして、何もなくなったそこは、世界樹の再生能力により、何事も無かったかのように、何もなくなった。
卓斗の体は、咎人の剣によって、貫かれていた。
「元々、鬼に殺される予定だったんだ、寿命が数分延びただけ感謝しな」
凌が駆け寄ってくるその姿を最後に、晶波卓斗の意識は途切れる。死体が咎人の剣、その刃からずるりと落ち、地面にべしゃりと崩れ落ちる。
そこから一つだけの光が抜け出そうとする。おそらくは、卓斗が最期の抵抗をしたのであろう。……楓を逃がす、という行為によって。
しかし、その光さえも、剣に貫かれ消えた。
「悠斗ォォォォォ!」
「よう、久しぶりだな、凌」
深紅の槍が悠斗に放たれるが、それはあっさりはじき飛ばされる。凌はそのまま一旦距離を取り、刀を抜く。剣の切っ先を地面に着け、悠斗は言う。
「意志無き凶器が彼処まで役に立たないとは思わなかった」
「……“鬼”の事か」
その通り、と悠斗は応える。それと同時に世界樹が大きく揺らぎ、そしてツタがうじゃうじゃと動き始める。
「……震電?」
「っと、ご明察」
凌の呟きに、悠斗が驚いたような表情を見せる。そして直ぐさま、剣をもう一度構える。それ以上の推測も許されはしないらしい。
凌がゆっくりと刀を構え、そして勝負は一瞬で決着が着く。
八月朔日凌は、世界樹の底へと落ちていった。先ほど、彼自身が鬼を殺した、其処へと。そして、落ちる最中、凌は知った。
(……全ては、これのため……!?)
悠斗が目指した、その目的を。
悠斗が、世界樹の底から視線を戻す。目の前に居る、黒いドレスの女の所へと。
「やぁ、イセリア」
「……悠斗」
一言で充分だった。何年か振りに会った二人は、次の瞬間に武器を交差させる。銀色の杖が咎人の剣を抑え、次の瞬間、ドレスの後ろから紅いリボンが悠斗へと向かい飛ぶ。
直ぐさま弾けるように悠斗が離れる。が、その腹部に何本かリボンが突き刺さる。次の瞬間にリボンが引き抜かれるが、それは炎で焼き切られていた。
リボンがもう一度悠斗へと向かい飛ぶ。だがそれは全て悠斗の剣に切り落とされる。一瞬にして間合いが詰められ、そして斬撃が飛ぶが、幾重にも目の前に重ねたリボンで、大した傷は付かなかった。
まるで踊るかのように、紅と黒は舞っている。さながら女神と魔王の舞踏の様な、本来あり得ない、だが華麗である、そんな戦い。
幾度も幾度も傷つけようと近づき、そして離れる。
ゲートの前、二人きりで。
前へ/戻る/次へ