第二十一話 鬼さんこちら、天哭く方へ


 短剣から伸びる漆黒の刃が、深紅の槍と激突する。火花と共に、漆黒の羽がぱらぱらと、舞い降りるように、散るように、堕ちてゆく。
 鬼の咆吼に対して、狼の咆吼が轟く。
「蒼雷」
 呟くと同時に、蒼い閃光が鬼へと激突する。が、鬼は怯むことなく、漆黒の刃を振り下ろす。凌はそれをあっさりと裏拳ではじき飛ばす。
 鬼がバランスを崩したそこに、凌の刀が突き刺さる。紅い血がボタボタと滴り、そしてそれは、貪るかのように、世界樹が吸収してゆく。
 鬼、その絶対的な力は、世界など容易く砕ける。だが、意志無き凶器には、何ら意味はない。凶器がそこに在ろうと、殺す狂気が無ければ、動きはしない。故に、
「オオオオオオオオオオォォォ!」
(コイツ程度、敵じゃない)
 凌のはなったロンギヌスの一撃が、鬼の腹部に、深々と突き刺さる。鬼が咆吼するが、意味など成しはしない。所詮、無駄な足掻き。
「ソゥハイト、全開放」
 唯一絶対の、ソゥハイトを三体所持する男、八月朔日凌。その全ては深紅の槍を通し鬼に与えられ、そして弾け飛んでいった。
 鬼の鮮血が飛び散り、世界樹がそれを貪る。死体がそこに一つ転がり、そしてそれさえもが……飲み込まれた。
「卓斗、急ぐぞ」
 何事もなかったかのように刀を鞘に収め、ロンギヌスを自らの脇腹に刺しながら(何故か凌の中に染みこむようにロンギヌスは消えた)、凌が卓斗に言った。
 卓斗は、先ほどまで鬼の死体が転がっていたそこを一度だけ見た後、凌に続いて、そこを立ち去った。


 鹿部宏邦は、困っていた。彼は常に中立であり、どちらのサイドでも無い。ただ自分は、****の下に仕えているだけ。彼女がどちらか決めればそちらに動き、死ねと言われれば死ぬ。それが自分の全てだった。
 ****は、ここに来てから、ずっと外を見ている。此処、−−−の外を。いつまでも、ずぅっと。まるで、誰かを待ち続けているかのように。
 いや、誰かを待っているのだ。そして、宏邦は、誰を待っているのか、それを知っていた。***。****にとって、何よりも大切なモノ。
「宏邦」
 ****が呟く。それを聞き、鹿部宏邦は直ぐさま考えていたことを脳から手放し、そちらを向く。無言で指示を待つ。
「“雷帝”を殺して」
「了解しました」
 一言だけであった。それで、自分とこの人の全ては成立している。宏邦は、義和があらかじめ創り出しておいた扉を通り、世界樹へと向かった。


 宏邦が居なくなったあと、****は独り立ち上がる。黒いドレスがゆらりと揺れ、とてつも無く長い、陽光の様な色をした金髪は踊るように光りを浴びる。
 銀色の杖を手に取ったその人物は、“ゲート”の管理者、“イセリア=ウェンズディ”。
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