第十八話 グッドバイ
(さて)
世界樹の頂上に立った将也が、大量の電霊に囲まれながら息を整える。真那と共に進んでいたところ麗華と遭遇し、交戦開始。如何にも邪魔そうな位置に自分が居たため、とにかく上へと登ってきた。天使の時に手に入れた翼も、こういうときには役に立つ。
「あぁ、来ましたね、将也さん」
「よう、久しぶりだな。義和」
一言の会話と共に紅い籠が周囲に広がり、そしてその中に居る将也に爆炎が飛ぶ。が、それは橙色の六角形により防がれ。
「爆刺突」
「刹那」
一瞬の間にて三度ほどの交差が起きる。その分炎が爆ぜ、世界樹の頂上を紅く染めてゆく。
鈍い音が響いたかと思えば、それを覆い隠す程の爆音が響き、鈍重な一撃と共に大気が唸れば、その大気ごと消し飛ばそうと動く。
「****は何処だ」
「貴方に教えるほど僕は馬鹿じゃないつもりですがね」
まるでそれが当たり前であるかのように、斬り合いながら言葉を交える。
「刻針!」
「嘆唄!」
氷の刃が迫り来る。が、それは一瞬にして紅蓮の劫火に飲まれてゆく。
「あー、相変わらずお強い事で」
「ふふ、お褒めの言葉有り難う」
大剣と刀がぶつかり合う。真那の大剣――灯疾――が、高熱を発し、麗華の刀を焼き切ろうとする。が、何で出来ているのか、焼き切れる事はない。
「竜仙は他の能力を受け付けないのよ? 忘れた?」
「悪いね、完全に忘れてた」
会話を交わす度に、氷と空間の一閃が飛び、そしてそれは爆炎に飲まれる。真那の体からは、左腕が抜け落ちたように消えている。
(無魂、ねぇ……厄介だな)
左腕を断ち切られた事による『痛み』は無い。簡単だ、そんな物、消してしまえば問題は無い。ただ、消せるかどうか、という疑問がついて回るが。
考えながら動くのはどうも自分には合わないらしい、と真那は考えた。直感で動くタイプである、と自負する彼は、どうも他のことを考えていると動けない。
故に、
今現在、麗華によって捉えられていた。
「捕まえたぁ」
無邪気に、はしゃぐように、麗華は呟いた。その笑みは深い黒に――邪悪に覆われている。全てを呪う為だけに生きるかのような笑み。
「いやー、参った参った」
緊張感の無い声で真那が呟く。恐怖も、憤怒も、そして悲哀さえも感じさせない。常に軽薄な行動を取るのが彼だ。
だが、軽く、そして薄く在るが故に、何を考えているのか悟らせない、それもまた彼自身なのである。
「……顎門」
麗華が呟いた瞬間、真那の右目の辺りに風穴が空く。一瞬にして、真那の視界は半分にまで遮られる。
「っ」
激痛が一瞬走るが、それも一瞬で消える。右目があったであろう場所に感じられる空虚と共に、右の頬を大量の血が伝う。
(負けた、か)
既に自分に勝算など有りはしない。こうなることは予想しては居たが、自分でも良くはやった方だ、と自画自賛し、そして真那は、
自分の両足ごと、自分を固定している氷を吹き飛ばした。
「!?」
意外過ぎる行動に、麗華が後ろへと飛び退る。竜仙を油断なく構え、真那を見据える。その視線に捉えられたまま、真那は右腕に握った大剣を掲げるように上げる。
(あー、爆発の加減間違えたな。……下半身丸々飛ばしちまった)
冷静に分析するが、それで傷が治るわけでもないし、出血が止まる訳でも無い。ただ、一つだけ解るのは、時間に余裕が無いで在ろう事。
「さて、最期に抗わせてもらうよ」
「負けるのは解っているのに?」
真那の言葉に、麗華が反応する。それを聞いて、真那は自分を嘲笑うかのように声を上げて笑った。そして、
「何、その方がおもしろいからそうするのさ」
一言と共に、真那の真後ろで爆発が起きる。そして、その勢いで宙を舞うように放り出される真那。その視線が捉えているのは、麗華唯一人。
麗華に向かって、一直線に、まるで滑走路の様に、炎が点在している。その炎に磁力を与え、一気に加速する。だんだんと視界が狭まっていき、そして自分が生きているという感覚が、だんだんと希薄になっていく。
「う、おぉぉぉぉぉぉ!」
最期の雄叫びと共に、爆発的な一閃を、麗華に向かって振り下ろす。
「無魂!」
空間ごと自分を断絶するその一撃に向かって、真那は吼えた。
「鬼灯疾!」
麗華にその一閃が直撃すると同時に、如月真那は息絶え、そして麗華の一撃により、跡形も無く、世界から外れていった。
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