第二幕【幻想を渉って】
テーマソング、ポケットビスケッツ「Red Angel」


第十三話 殺神和途


 時は二年ほど経過し。
 佐上和途は、電霊と相対していた。
「ふむ、ハーピィ、ね」
 その佐上和途の正面に居る電霊――ハーピィ。女性の姿はしているが、見れば解る。コイツは、電霊だ。
 和途が腰の後ろに手を回すと、ホルダーから独りでに短剣が飛び出し、和途の手中に収まる。それはまるで、短剣自身が意志を持つかのように。
 短剣を上に掲げながらハーピィへと向かって突進する。天空が一瞬だけ光り、そして和途がハーピィに向かって剣を振り下ろすと同時に、
「舞紫電!」
 紫紺の稲妻が短剣と共にハーピィへと叩き付けられた。稲妻によって消し炭と化したハーピィが風に流され消えていく。
 その最後の一欠片が視界の端から消えた瞬間、死角から来る殺気。短剣を逆手に構え、そこから左へと旋回し、そのままの勢いで宙を引き裂く。
 後ろから接近していた、電霊に汚染された巨大な工事用ロボット――文明が進みすぎているというのも問題だ――のドリルを真っ二つに切り裂く。
 工事用ロボットは悲鳴一つも上げず、真っ二つに切り裂かれたドリルを和途に向かって突き出す。それを和途が避ければ、もう片方のドリルが接近する。
「邪魔」
 ぽつりと和途が呟いたその瞬間、和途の姿はドリルの前から消えていた。そして更に次の瞬間には工事用ロボットの後ろに浮いている。そして、
 一閃。
 工事用のロボットはそこで真っ二つにたたき割られ、がらがらと音を立てながら其処へ倒れ込む。そしてそこから這いずるように出てきた電霊を、『斬った』。
 全てを終わらせて、何事も無かったかのように短剣をひゅんひゅんと振り回し、そして腰の後ろに手を回し、短剣から手を離す。それと同時、短剣が吸い込まれるようにホルダーへと飛び込む。
「ひ、ぃ……」
 和途の後ろから声がした。名前も知らない女。そういえば、コイツが工事用のロボットに襲われてたんだっけ。などと考えながら、和途は其処を立ち去ろうとした。
「あ、あの」
 怯えながら、名も知らぬ女は和途に何かを問おうとする。それを聞き、和途は振り返る。女性の恐怖に満ちた眼が私的には痛いのだが気にはしない。電霊に相対する事の出来る人間なんてそうそう居はしない――つまり、一般人から見れば異端の存在なのだから。
「何だよ」
 言うと、女性はびくりと肩を一度震わせた。こんな反応をするのに、何故わざわざ話しかけたりなどするのだろう。一般人のする事はよくわからない、などと考えながら、和途は女性を見ていた。
 恐る恐る女性の口が開き、こう言った。
「貴方は――何なんですか? 誰なんですか?」
「俺? 俺は……」
 呟いてから、和途はしっかりと女性に向き直った。相変わらず恐怖に満ちた眼だが、先ほどよりその恐怖が深くなった気がする。それもそうだ、自分より小さい子供如きが、自分を襲う電霊を『狩った』のだから。
「電霊狩りの佐上――」
 そこまで名乗ってから、少しだけ考え込み、和途はもう一度言い直す事にした。
「殺神和途だ」
 短剣の柄に彫られた『神殺』の字が、怪しく、黒く光っていた。
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