第五話
飛ぼうとしたって、翼が自分に無いことを知ってしまった。夢さえも手に入れる事は敵わず、そしてそれは虚無へと消える。
いっそ夢など手放してしまおうと考えた。そして、僕は夢を忘れた。
そして僕は、
神を殺した――。
最近、ミーシアの姿が見えない事が多くなった。最初の内は気にしなかったが、どうも気になってくる。
具合が悪いとか言ってたが、様子がおかしすぎる。が、それについては触れて欲しくなさそうだった。
そして、平和が崩れていき、最後、その一歩手前が、目の前に在る。
具合が良くなった、というので外に出た。それが最後になるって事は、その時、解ってた。解ってたけど、知らなかった。そして、解らないフリをした。
「あたしね」
ミーシアが語り始める。二人が会った(と言っても、ミーシアが和途の前に落ちてきただけなのだが)場所で。
「和途の事、好きだよ」
突然の告白。だが、和途は何とも思わない。恋などしたことはないし、それに――。好き、というその感情が、ヒトという存在とは限りなく遠い、自分には理解出来なかった。
遠い昔、知っていた気がする。それは、記憶を失う前の自分の感情なのだろうか。だが、そんな事さえどうでも良い、そう思って生きてきた。
「……そうか」
それしか、言えなかった。ミーシアを見るが、彼女は、ただ沈んでゆく夕日を見ていた。矢っ張り、天使に見える。そう、和途は思った。
「一つだけ、あたしのお願い聞いて?」
ミーシアがふとこちらを向き、そういった。和途は少しの間だけミーシアを視た後、視線を夕焼けに移し、無言で先を促す。
「あたしがあたしじゃ無くなったら――和途が、殺して」
「解った」
即答だった。考えもせず、そう言った。それが彼女の望みなら。俺は彼女を切り捨てよう。自分を好きと言ったその姿を、跡形もなく切り刻んでくれよう。
その解に満足したような笑みを浮かべたミーシアは、家に戻ろうと歩き出す。そして、和途も。無言で、二人は歩いていった。
そして、沈んだ夕日が、再び朝日となって登り。
二人は、血の色をした世界で、混じり合う。
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