第十一話 幻想から覚めても貴方を愛そう
目的地すら伝えて貰えないまま進む中、和途は、悠斗から様々な話を聞いた。電霊の事、ペルソナの事。そして、魔力。
電霊というのが、この世界には溢れているらしい。主に機械等に浸食し動くが、吸血鬼などに浸食し、そこから更に人間を浸食していく物もいるらしい。
そしてペルソナ。これによる『殺すイメージ』が無ければ電霊を斬る事すら不可能らしい。つまり、悠斗はこれを持っている、という事だ。……正確に言うと、ペルソナというのは深層心理で有り、覚醒するかどうかは本人次第、という事らしいが。
修行、とかそういうベタなのじゃなくてね。
更に魔力。いわゆる魔法チックな攻撃等にも使えるアレだ。用途は様々、人にもよるらしい。例えば悠斗は風と閃光、悠斗の知り合いである少年は炎を使う事が多いらしい。悠斗は何度も戦ったことが在るけど、全部勝ったらしい。……ちょっと不憫、少年。
太陽が七回昇降し、月が七回昇降した辺りで、悠斗は一度止まった。和途としてはようやく止まれたのでその場で倒れ込む。その場、と言っても悠斗からは大分離れている。悠斗はそれこそ人外とでも言うような体力で歩き続けたが、『和途』はただの人間、着いていけはしない。
「抜け」
あの塔から出て、悠斗は口数が少なくなったと、和途は思った。いつもの悠斗の雰囲気はあれからどこにもなく、ただ、冷徹な刃物のような雰囲気を持っている。
それこそ、触れてしまえば触れたその手が切れてしまうような。
(くだらない)
そんな事を考えてる暇も無いじゃないか、と心中続け、短剣を抜く。柄の短く、刃の長い、バランスが悪いとも言える、その短剣。
銀色が鈍く光るその刃を悠斗に向け、その短剣を構える。柄が短いため、両手で持てるものでもない。右半身を前に出すような形で、立つ。
悠斗が剣を抜く。神を斬穫した、咎人の剣。確か、悠斗はそう言っていた。遙かに、自分の持つ短剣よりリーチの長いその長剣に対して、どう戦った物か。
悠斗は、説明だけはしてくれるが、コツも方法も教えてくれはしない。無論、他人から聞いた知識程度で何処までも強くなれるならば苦労しないのだ。全てを、自分で切り開いてこそ、何かを得られる。
『以前の自分が思ったことと同じことを考え』、和途は思考を一度停止させる。そして、もう一度意識を短剣に、長剣に、悠斗に、その全てを見通すような紅い眼へと向けていく。
悠斗と眼が合い、その紅が邪悪と言えるほどに細まったかと思った瞬間、爆発的な速度で悠斗がこちらへと駆けてきた。短剣を持った手を突き出すようにして悠斗へと向ける。
駆け抜けたまま、悠斗は和途の真横へと、飛ぶ、という表現を使っても間違いでは無いほどに、跳躍した。
そのまま足を一瞬地面に着けたかと思えば、再び和途へと向かい来る。和途が此処でとるべき行動。いや、本来なら悠斗と戦いになった時点で間違いとも言えるのだろうが。
回避。短剣の利点は此処にある、と和途は考えている。斧や剣のように、移動に邪魔になる重量も無く、銃のように弾切れを起こす訳でもない。相手の一撃を避け、必殺の一撃を放つ。それだけが自らの持つ武器の全てだと。
そう、そして回避した和途は、悠斗に向かい、必殺の一撃を繰り出し、
そしてそれは外れた。
(次元連結)
冷静になれ、と自身へ命令を下し、すぐさまそこから飛び退る。一瞬前に和途が立っていた場所が、ベコン、という音を立て、凹む。
凹んだ後に、地面が一気に上へと吹き飛ぶ。それにより視界が遮られ、ひとまず後ろへと下がった和途の首筋に剣が突きつけられる。
「十秒、だ」
悠斗が一言だけ呟いた。
名も無き塔の最上階、イセリア=ウェンズディの私室。窓に頬杖を突きながらため息を吐く。その姿は物憂げな女性にも見えれば、全てを凍り付かせる絶対なる闇とも映る。
その私室の扉を誰かがノックする。
「待ってたわ」
扉の主の姿も見ずに――いや、見えているのかも知れない――イセリアは呟いた。その声を聞きながら入ってきた一人の少年。名は、城戸義和。
「時間です、イセリア」
「そうね、解ってたわ。……もう時間が無いことくらい」
言いながら、立ち上がる。金色の髪がふわりと揺れ、黒いドレスがその波を目立たせる。白銀の杖を手にしたその姿は、まさしく、名も無き塔の女王。
「さぁ、案内して頂戴、坊や」
「えぇ、行きましょう」
言いながら義和が宙に文様のような物を描いたかと思うと、其処に扉が現れた。次元と次元を繋ぐ、扉。
「何かやり残したことは?」
「そうね……。もう一度、あの人に愛を囁く事かしら」
義和が肩をすくめ、扉を通って消えていった。そして、部屋の中に残ったのはイセリアだけ。イセリアは、白銀の杖を握りしめ、窓に向き直った。
窓の遙か遠くを見つめ、一言だけ呟いた。
「さようなら、ユウト」
寂しげに、一言だけ。
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