第十二話 歪な空
和途が目を覚ますと、直ぐ其処に寝ていたはずの悠斗の姿が見あたらなかった。何となく気になったので、悠斗がそこら辺の物を使って造った寝床から出、辺りを見渡した。
いかにもな岩の上に、悠斗は居た。遙か遠くを見つめている。その眼は何処か空虚で、あの紅い眼の中心を、誰かに奪われたかのようだった。
「……和途か」
こちらも見ず、悠斗は呟いた。風に揺れる木々の音さえもせず、その声は静かに響いた。何もないかのように、空虚な響きが、掻き消えていく。
呟いた後、悠斗は何も喋らなかった。和途も、何一つ喋らなかった。二人は、その夜が明けるまで、遙か遠くを、空の向こうを見続けていた。
見ている方向が、名も無き塔の方だと和途が気づいたのは、日が昇り、再び出発する準備を整えた頃だった。
短剣をホルダーに納め、煙草を口に咥える。特に好き、という訳ではないが、悠斗達の所で目覚めた時に所持していた物の一つな為、何となく吸っている。減らないのは不思議では在るし、不自然でも在るが、不自由という訳では無いので特に気にしない事にしている。
そして、同じく所持していたライターで火を付ける。その光景を見ながら悠斗が歩き出し、和途もライターをしまい込んでから続く。
日が丁度悠斗達の真上に差し掛かった頃、悠斗達は、砂漠に居た。
「さっきまでジャングルみたいだったのに何だこりゃ……」
「次元が歪んでるんだ、仕方無い」
言いながら悠斗は黙々と進んでいく。次元が歪んでいる、という言葉の意味はよくわからないが、まぁ、とりあえず異常な状態なのだろう、この世界は。
適当に結論づけ、悠斗の後を追う。それにしても休憩はまだだろうか、などと考えながら。
何故次元連結を使わないのか、などと聞きたい事は幾らでも在るが、悠斗なりの考えが矢張りあるのだろう。そして、その考えを越える考えを導き出せる自信など欠片も無いため、黙ったまま和途は悠斗を追った。
街に着いたのは、日が暮れようとする頃だった。
「太陽の街『サン・ミゲル』ねぇ」
言いながら和途は辺りをぐるぐると見回す。宿屋、鍛冶屋、武器屋、雑貨屋……パッと見ただけで随分な量の看板などが在る。どうやら商店街、な辺りらしい。
悠斗曰く、一度は廃墟にまでなりかけたらしいが、とてもそうは見えないほど、その街は復興していた。
「で、何のために此処に来たんだ?」
流石に何か聞かせてくれても良いんじゃないか、と和途が語りかけると、悠斗はぽつりと呟いた。
「知り合いが居る。……昔からの、な」
悠斗に連れて行かれた其処は、墓場だった。太陽の街、その裏に隠れるように存在する墓場。それはまるで、光によって映し出される影のような雰囲気を持っていた。
周囲は宵闇へと向かい、暗黒が空を覆い、加速していく。瞬き始めた星や月の光が、墓場を不気味に照らし出す。
夕暮れとはまた違う、暗く、重い空気。そしてそんな世界の中、和途と悠斗が立つその墓に刻まれた名前は、『ジャンゴ』という人物の物だった。
その人物が誰なのか、和途は知らない。だが、その名前には、妙な既視感を憶えた。墓の横に立てかけられている白銀の大剣にも、だ。
「……死人に会いに来たのか?」
別に理由も特にない質問だが、意味無く悠斗が死人に会いに来るという事など無いと思い問う事にした。そしてその返答は、中々意外な物だった。
「コイツは死んじゃいない」
墓が建てられた者がまだ生きている、という。
悠斗に着いていき、サン・ミゲルを後にした。墓に立てかけてあった白銀の大剣――グラムというらしい――は、和途が持ってゆく事になった。とてつもなく重い。ジャンゴという人物は、こんな物を使って戦ったりしたのだろうか。
いや、案外飾りの様な物なのかも、などと考えていると、悠斗が立ち止まった。
「……震電か」
「よう、悠斗」
震電、と呼ばれたその男は、悠斗と和途に近寄っていく。悠斗が全く警戒などしていないように見えるため、和途も特に警戒はしない。と言っても、流石に襲いかかられれば直ぐに避ける程度の心構えは常に在るが。
「−−−は?」
悠斗が何かを言ったが、その言葉だけがフィルターをかけたかのように、和途には聞こえない。
「−−−、か。まだ動いては居ないさ。ただ、****は動いた」
先ほどの単語とはまた違う単語のような言葉。だがその言葉も、和途には聞こえない、否、解らない。
彼らが何を言っているのか、それが解らない。聞こえているはずなのに聞こえはしない。
「……あぁ、知っている」
寂しげに悠斗が呟き、そして和途の方を振り向いた。
「和途、行くぞ」
行くぞ、という言葉は、命令では無かった。あくまでその言葉は、問いかけ。この問いに頷けば、きっと、もう引き返せはしない。とんでもない何かに、俺は巻き込まれる。そんなことを考えながら、
「解った」
和途は頷いた。
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