第十話 イメージ


「お早う」
 言いながら、少年は部屋から出てきた。
 『少年の名は佐上和途。何故か塔の前に倒れていて、イセリアと悠斗に拾われた。記憶喪失だったため、以来イセリア達と共に暮らしている』。
「あら、やっと起きたの」
 イセリアが答え、悠斗は手元にあったパンを投げて寄越す。どうやら、これが朝飯らしい。そう判断すると、和途はそれを持ったままそこら辺に座り込み、それをさっさと食べ終える。
 和途がパンを食べ終え、立ち上がろうとした瞬間、悠斗が話し出した。
「和途、ちょっと来い」
 普段の悠斗とは少し違った、有無を言わせない言い方に疑問を感じながらも、和途は悠斗に着いていった。
「それにしても、本当に高い塔だよな」
「まぁ、な」
 相当な高さのある塔、その最上階を出た所から下へと続く螺旋階段。を無視して、その中心を飛び降りながら二人が会話を成立させている。
 端から見ると飛び降り自殺にしか見えない。足を滑らせて落ちたようにも見えるかも知れないが、その場合もうちょっと藻掻くような気もする。
 そんな会話を終了させるように、急速に床が近づいてきた。つまり、名も無き塔の最下層に到達した訳である。
 悠斗が下に手を向けると、風が巻き起こり、そして何事も無いかのように二人は床へと着地した。
(相変わらずスケールのでかい手品だ)
 心中呟きながら、直ぐ其処の扉を開け中に入っていく悠斗を追う。
 追った先、扉の向こう側には、これ以上ない、という程の武器が大量に置かれていた。世界中の武器、兵器を全て集めたのではないだろうか。相当な量である。
「一つだ」
 悠斗が一言言った。
「一つだけ教えてやる、選べ」
 どうやら、この大量に在る中から一つだけを選べ、という事らしい。その選んだ一つを、どうやら悠斗が扱い方でも教えてくれるらしい。
 そんなすばらしい状況下、和途は武器をのんびりと見始めた。それはもう膨大な量だ。兵器なんて幾らでも在るし、武器は日本刀だか西洋剣だかそれはもう大量にある。
 それにしても、一つだけ教える、という事は、この重火器だの何だのの扱いまで、全て悠斗は出来る、という事になる。どれだけの月日を費やしたのだろうか。和途と大して年齢も変わらない(和途はそう思っている)のに。
 時間をかけて和途が大量の武器の中から選んだのは、一本の短剣。長さは……大体、置き傘程度、と言った所か。片手で持つようになっており、刃の部分が異様に長い。柄の部分は、これでもかというほど短くなっている。
「それにするんだな?」
 選択肢でも迫るかのように悠斗が呟いた。和途はそれを聞き、特に考え込む様子もなく首肯する。それを見て、一瞬だけ悠斗の目が変わったかと思うと、
 剣がこちらに向かって飛んできた。
「!」
 横っ飛びに避ける。避けながら横を見ると、柄が和途の方に向かって飛んできた形になっていた。それはまるで、
 後ろでその剣を手に取るように飛ばされたようだった。
「黒鷹」
 一言の呟きと共に、風が巻き起こる。
(風――?)
 否、
(衝撃波か!)
 幾度か見たことが在る、塔に攻め込む軍勢――電霊とか言ったか――を、剣を一閃させるだけで葬って居たその光景を。……その記憶は、『和途が和途の為に用意した記憶』なのだが。
 風が自分に襲いかかる。『そのイメージを打ち砕くイメージを短剣に付加する』。
「うおぉっ!」
 短剣を縦に一閃させる。と、斬撃と共に、衝撃波が真っ二つに『割れた』。割れた衝撃波は、和途の横を通り、二つの風となって壁に激突した。
 衝撃波をたたき割られた悠斗は何事もなかったかのような表情で其処に立っている。が、衝撃波を割った側で在るはずの和途は、疲労感を露わにする表情をしている。
「合格だ」
 一言だけ、悠斗が呟く。そして、その呟きを聞き、和途は短剣を腰の後ろに回し、先ほど着けたホルダーに納める。納めたかと思った瞬間、和途はその場に倒れた。
「……終わったの?」
 いつの間にやら、悠斗の直ぐ後ろに、イセリアが立っていた。だが、気づいていたのか、それとも気にしないのか、悠斗は平然とイセリアと会話する。
「あぁ、合格さ。連れて行く、世界に」


 翌日、目を覚ました和途をつれて、悠斗は塔の前に立っていた。並んで立つ二人の前に居るのは、イセリア。
「行ってらっしゃい」
 その一言を全ての糧にするかの如く、電霊の軍勢がやってきている。それに背を向けたまま、悠斗は一言だけ言った。
「行ってくる」
 言うと同時に後ろへ振り返り、剣を一閃させた。電霊化しているグールの軍勢がはじけ飛び、道が開ける。そして、その開いた道を悠斗が歩いていく。
 敢えて終始無言で在った和途は、悠斗に続いて歩き始めた。
 そんなこんなで、全てを知る少年と、何も知らない少年の、扉を巡る旅が始まった。
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