第九話 終焉を見ぬまま、回帰への道を辿り行く


 ユラユラと口元で灯が揺れる。
「本当に良いんだな?」
 悠斗が一言だけ呟く。和途は、カプセルに入ったまま、一言だけ答えた。
「何かを知ったままじゃ、得られない事もたまには在るさ。それに」
 口元で揺れていた煙草を握りつぶす。開いたその手には、何もない。ゆっくりと手を元の位置に戻してから、悠斗の方を見る。
「知ったまま動いた記憶は、他の俺が手に入れる」
「それもそうだ、何処かで必ず分岐するんだからな」
 言いながら悠斗がガチャガチャと何かの装置を動かしている。横に立っているイセリアは、何も言わない。ただ、ゆっくりと、和途を見つめるだけ。
 その目は、実験対象を見るような、冷めた目だった。元々、彼女や悠斗は、このような物から生み出された物だ。同じく、真那も。
 同時に、それを研究する者で在ったイセリアは、矢張りこういう物には慣れているのだろうか。
「にしても、『ラグナロクを防ぐ結末』もラグナロクの糧にされる、っつぅのは虚しいだろうね」
「なに、それをお前が思っても何が起きる訳でもないさ」
 言い終わると同時に、忙しく動いていた悠斗の手がピタリと止まり、人差し指が一つのキーの上で停止している。
「行くぞ、和途」
「ばっちこーい」
 本人の適当な返答と共に、悠斗の人差し指は、Enterキーに触れた。
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