第八話 ずっと昔から、僕達は
がすっ、と互いを殴る音だけが虚空に響き渡る。雄叫びのような声と共にまた拳が互いの体を捉える。
いつの間にか、塔は姿を消し、周囲はただの漆黒と化していた。二人の上空では、何もかもを閉じこめたパンドラが、ただユラユラと揺れている。
「なぁ、章人!」
殴り合いながら声をかければ、必然と声は怒鳴るかのようになる。
「お前の願いは何なんだ!?」
がッ、と。和途の腹部に章人の拳がまともに入る。和途がうずくまった其処に蹴りが入るが、後ろに吹き飛ばされた後直ぐに体勢を立て直す。
「悪いけど、それはお前にも教えられない」
「そうかよ」
一言会話を交わした次の瞬間、また拳が飛ぶ。
「お前は昔からそうだった! 結局俺には何も言わなくてさ!」
今度は和途の拳が章人を捉える。よろけた瞬間に顔面に横から蹴りが入り、地面に倒れ込む。其処に右手が振り下ろされるが、横に転がって避ける。
「だってお前は! お前は俺の事なんて何も知らないじゃないか!」
「知るわけねぇだろ! お前が話さないんだから!」
互いは気づいていなかった。殴れば殴った分だけ、お互いの体が幼くなっていっていることを。
いつのまにやら、自分たちが共にいた頃と同じような姿になっている。
それでも二人は殴り合う。殴った分だけ、光が零れ、それはパンドラの中へと吸収されていく。まるで、二人の思い出さえも吸収していくように。
ボロボロになった二人は、互いの正面にいる、小さな子供を見た。
「っはぁ、はぁ……」
「……っく……、」
互いは、既に互いのことさえ忘れていて、そして、自分のことさえ忘れていた。誰かなんて解らない、けど、今目の前に居るコイツは俺の敵。
それしか、解らない。
互いが漆黒に透け始め、存在自体が消えかけている状態で、二人は殴り合う。殴り合った分だけ、全てが欠けていくようにして、パンドラに運ばれていく。
「ぅ、あああああ!」
「で、りゃあぁぁ!」
最早赤子の泣き声のようになった雄叫びを上げながら、二人は互いを殴る。
そして、二人は消えた。
全てが無くなった世界で、絶無の漆黒の中で、パンドラはくるくると、宙で回転を続けている。最早それは宙なのか、それすら解らない世界で。
パンドラがバラバラと、外側から崩れていく。腐った木が崩れ落ちるかのようにして。そして中から現れたのは、
真っ白な花。
それはくるくると、何もない其処の中心で回った後、光った。真理であるその花は、誰かのさえ解らなくなった望みを叶えるべく、
真っ白に光り、世界を包んだ。
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