第七話 俺は、俺の為だけに
和途は、長い長い塔を、上へと向かって登っていた。既に体中はボロボロで、今はレイプトラズトだってこの手に握っては居ない。
少しだけ座って落ち着く。恐らく、パンドラを完全に扱えるようになれば、傷も痛みも、パンドラの中に押さえ込めるだろう。……ただし、開けてしまえば全てが終わるが。
それに、まだ戦う相手が居るのに、この最大の力であるパンドラを封じるわけにはいかない。開けられなくなれば、それで全て終わる。
「……悠斗」
先ほど彼と戦った、今となっては漆黒にしか見えない、塔の下の方を見やる。もう自分には何も見える事無く、ただそこには闇があった。
塔を登り切って、屋上へと着いた。其処には、良く知っている人物が居た。ソレはこちらへと振り返り、そしてニヤリと笑う。
「来たか、和途」
「よ、章人」
互いに、それぞれの武器を構える。世界が教えてくれた。真理を手にするための条件。それは、自分が、世界で唯一人となること。全てを殺し、世界の全てをその手に握り、それでようやく、真理というソレが手に入れられる。
そして、この世界に存在するのは、春日和途と、上津章人、その二人だけとなった。
だから、殺し合う。
「黒龍!」
黒い尾を引きながら大剣を一閃させる。それはまるで黒き龍のようにして章人へと襲いかかる。
「効かないよ」
ポン、と。全てが一瞬にして打ち消された。そして同時に、
(……っな……!?)
パンドラの箱が、閉じた。
和途の傷は全て癒え、だが同時に、レイプトラズトさえもがパンドラの中に押し込められてしまった。翼も、銀髪朱眼も、灰色のローブも全て失せる。全てが元の自分に戻り、何もなくなる。
「さぁ和途、戦おうか」
だがしかし、それは章人も同じようで、唯単にその手を殴るように構える。
「……最後の最後で、ケンカかよ」
ポツリと呟いてから、苦笑する。遙か昔彼と居たときは、些細な事でケンカをしたものだ。それが今じゃ、世界丸々一つ、それを賭けて殴り合う。
がっ、と。右の拳と左の拳がぶつかりあった。
「っげ!?」
腕をはじかれた和途は一瞬驚く。その一瞬に、章人は右拳の一撃を和途の顔面に入れる。
「っご……!」
後ろによろけた其処へ章人が蹴りをかまそうとするが、左側に倒れ込んでそれを避ける。 パンドラの箱を開けた状態であれば、恐らくなんと言うことはないだろうが、今の自分はただのヒトである、どうしようもない。
ぺ、と血の混じった唾をそこらに吐き捨て、和途は章人へと跳びかかる。
「……いつ振りだろうね、こんなのは」
章人の呟きが、何だか虚しく、響いた。
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