第九話 誰かが望んだ世界で
っていう夢を見た。
……あぁ、随分とおかしな夢だ。とぼうっと考えながら、春日和途はその身を起こす。そしていつも通りに着替え、いつも通りに朝飯を食べる。
大分学校へ行くまでには時間があるので、また自室に戻り考え込む。
今のは夢だったのだろうか?
自分は春日和途、十四歳、中三、男子。そして此処まで生きてきた十四年間の記憶は確かに頭の中に存在する。
だがしかし、俺はその記憶の中で過ごした覚えがない。自分が存在した記憶が無いのに、頭の中に記憶が存在している。そして、この頭の中に記憶されていない、夢の話で過ごした記憶は、ある。
此処は、真理によって願いが叶えられた後の世界なのだろうか? それとも、自分はただおかしな夢を見ていただけなのだろうか?
……マジにただの夢だったら、ちょっと病院に行った方が良いかもな、などとシャレにならない事を考えながら、和途は家を出た。
「お、和途!」
家を出ると、晶波卓斗が其処にいた。当たり前のように其処に立っていた卓斗は、『いつものように』俺を待っていたらしい。
学校へと歩いていく途中で聞いてみる。何かおかしな夢見なかったか、と。
「いや、全然? 美少女が出てくるのっておかしな夢?」
OK、それはそれでおかしいっちゃおかしい(世間的に)が、コイツは何も知らないらしい。……いよいよ家に帰ったら保険証を探さなきゃいけないかも知れない。
取りあえず、存在している記憶をあさってみると、自分は中高一貫の学校に通っているらしい。……無論中学で受験した憶えなぞないし、そんな頭脳を持った記憶もない。
「お、和途に卓斗か」
「おっはよーさん」
テケテケと、何故かハイペースで歩いてきた二人は、黒木宵に、八月一日凌。高等部の一年生で、つまりは年上、先輩な訳だ。
……俺は一緒に戦った記憶しかないが。
どっちが競歩で早く学校に着けるか、などと言うことで賭け(千円というなかなかな大金らしい)をしているらしく、凄い早さで歩きながら(というかもう走ってる)二人は学校へと行ってしまった。
それでもてくてくと歩いていると、自転車を二人乗りしながら爆走している人達が来た。
「ほらほら将也、もっと早く」
「可愛げ無ぇなぁ……オイ」
有川将也が全力で漕ぐ自転車の後ろで、黒西麗華が座っている。カップルに見えるがただの幼なじみらしい『という記憶がある』。
これまた適当に挨拶を交わして行く。
んでもってまたテクテクと歩いていくと、二人組の少年が後ろから跳びかかってきた。
「よぅ二人とも!」
「おはよー」
洲崎俊哉に、城戸義和。中等部三年、つまり同級生。……いや、だから俺は会った記憶さえも(略)な状態なのだが……。
と、
キーン、コーン、カーン、コーン。
何か色々とありがちすぎるチャイムが鳴り始める。それを聞いた三人は一斉に駆け出す。……出遅れた……。
正直遅刻なんて何回もした記憶が『在る』ので、いっそこのまま歩いていこうと諦め歩いていく。と、閉まっていく門に向かって、何か高級そうな車が走っていく。
ふらりと窓の中に目線をやると、見たことのある人間が二人ほどいた。
奥に座っていたのは、イセリア=ウェンズディ。高等部三年の女性で、名前の通り外国人。……日本語ぺらぺらだけど。学級委員で生徒会長なのにお姉さんキャラ。……なんか凄い攻撃属性を持ったヒトである、という記憶。
手前で座っていて、ちらりとこちらを見たのは世刻悠斗。高等部一年で、何故かイセリアと同居しているらしい。……執事やってるとかボディーガードやってるとかあらゆる意味でのお手伝いだとか様々な噂が立っている。
……が、何となく全部だと思う俺。
校庭に堂々と入っていく高級車を見送りながら歩いていくと、門の前に誰か居ることに気づく。……誰だありゃ?
近づいていくと、誰か解った。俺の頭に知らないのに記憶されている世界では『転校したことになっている』少年。……色々と聞きたい事なんてありすぎるけど、まず言うべき事が一つある。『この世界』の俺として。
そして、一番最初の世界の、俺として。
「……お帰り、章人」
「ただいま、和途」
これは、誰が望んだ世界だったんだろう? そんな事を考えたが、直ぐに打ち消す。夢の中の出来事でも、現実だったとしても構わない。
……何はともあれ、面白そうだし、頭の中に在る記憶を見てみると、楽しいしな、この世界。
誰が望んだ世界でも良いさ。
この世界を、歩いて行くから。
おしまい。
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