第五話 僕の周りには誰も居ない


 雄叫びと共に、大剣を自分の目の前に突き出す。來喚の呟きと共に、全ての力を自分から解放する。それはまるで、パンドラの箱を開けるように。
 銀髪朱眼、そして漆黒の大剣。纏うのは灰色のローブ。自分が手に入れてきた全てをその身に纏い、和途は跳ぶ。
 振り下ろされた大剣を、数センチ動いただけで悠斗は避ける。その真横を大剣が通り過ぎ、塔の床をたたき割る。悠斗が短剣を構え、次の瞬間には和途の顔に向かって突きが繰り出されていた。
 が、それをその場で生み出した炎の短剣によって防ぐ。悠斗が数歩下がると同時に炎の短剣は消失し、悠斗が居た場所に大剣が振られた。
(……どうも、一手遅れるな)
 矢張り、それでも、目の前にいるソレには勝てないのだろうか? ……いや、流石にソレは無いだろう。幾ら最強の名を持とうが、世界をまるまる一つ相手になんて……。
「……出来るから最強、なのか」
 結局、自分は勝てないのかも知れない。が、勝たなきゃ面白くないんだ、俺は。大剣を構え、そして飛び込んできた悠斗を迎え撃つ。
「その顎は鬼の牙の如く、天の牛は大地を喰らう」
 来る技なら解る。世界の全てが俺に警告する、どの技が来るかを。そしてこの技が、此処から即座に飛び退けばそれで避けられるであろう事も解る。
 が、その思考さえ許さないほどの至近距離。避けられて困る一撃ならば、当てられるようにすればよい、という事だろう。
 ならば。
「灯疾!」
 迎え撃つ、全力で!
 ツァ、と。大気を切り裂きながらその一撃は自分を喰らい、千切ろうとする。そしてその一撃を、打ち砕く。
 とある青年が教えてくれた。いや、奪い取ったと言った方が正しいのかも知れない。ただ、その一撃を、全力で討ち放つ。
 バゴン、という派手な爆発音と共に物の見事に和途は吹き飛ばされ、床をごろごろと転げていき、そして体勢を立て直し、
 目の前に来ていた夜叉砕の認識させようとする全てを無効化し、炸裂する大気を切り裂き、受け流す。
 どれだけ力を手に入れようと、俺はコイツに敵わないのかも知れない。


 でも、構わない。


 最後の最後まで、俺は……!


「お、おおおおおおおおおお!」


 機械仕掛けの翼が、花弁のように開く。
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