第四話 手に入れた鍵


 視界が霞む。目の前で、悠斗は無表情に俺を見ている。ふと気づいたようにして振り返り、歩き出す。
 ……俺は、負けたんだ……。
 いや、負けていなかった。そもそも、勝負ですら無かった。勝ちも負けもない。元々勝ち負けの決まっているソレなど、勝負とは呼べない。
 ぼうっとする意識の中、和途は一つ、何かが手にあるのを感じた。
 既に、意志によって形状を保つレイプトラズトは消えている。なら、この手に握っているこれはなんだろう?
 死に近づくという感覚を身にひしひしと感じながら手を開き、其処に目線を向ける。
 其処にあったのは、


(……鍵?)


 何の鍵だろう。またそうやってぼやっと考えた瞬間、目の前には箱があった。
 ……開けてはならない禁断の箱、パンドラ。
 ソレに向かって手を伸ばすと、箱は自分からやってくるようにして和途の手中に収まった。それを見て、和途は気づく。
(俺は……何のためにここに来た?)
 真理が何か。そんなのは知っている。世界の全て。そしてここに来て何をする? 真理を……手に入れる。そして俺は創る。俺が……望んだ世界を。
 それがどんなに歪んだ思想でも構わない。俺がどれだけ狂っていようが、知りはしない。 一度だけ深呼吸すると、迷うことなく、和途は箱の鍵穴に、鍵を入れた。


「待てよ」
 立ち去ろうとした悠斗の背中に声がかかる。一瞬だけ、本気で驚いたような様子を見せた悠斗が後ろを振り返る。
 其処には、居た。
 それが、恐らく彼の居た、世界の全て。彼が生きていたという、証。
 全てを開け放ち、春日和途は其処にいた。
「終わっちゃ……いねぇ」
「……覚醒させたか」
 和途は、背負っていた。彼の居た世界全てを、生きたという証、ソレを。
「ソゥハイト、『パンドラ』……!」
 禁断の名を背負い、春日和途は再び立つ。
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