第三話 僕の名前は、禁断の箱
「驚いた、まさか自分で自分をパンドラボックスにしちまうとは」
言いながら悠斗が塔を降りてくる。階段なんて使わずに、空を舞うようにして。後ろには、歪んだ黒い影が見える。
「……俺は、何も捨てられないよ」
言った次の瞬間に、大剣と短刀がぶつかる。
「それがお前の答えで、それが在っているのか」
バチン、と弾けるようにしてお互いが離れる。
「証明して見せろ」
悠斗はその台詞と共に、短刀を構える。それを見た和途は、漆黒の障壁を展開する。が、そんな壁如きで防げるほど甘くないのも、良く知っている。
「猛禽、黒獅子の駆けるが如く」
言葉を紡ぐと同時に黒鷹が空を駆ける。それは漆黒の障壁とまともにぶち当たり、そして押し合う。ビキビキと音を立てながら障壁に罅が入っていき、そして、
「川蝉、全身を以て指の如く、精巧なり」
二撃目が放たれようとする。
(翡翠!)
理解が出来ようと、対策が出来なければどうしようも無い。未だ黒鷹は自分の障壁を打ち破ろうと其処で吼えているというのに、この状態で更なる一撃が来れば……。
(……いや、どうでも良いな)
ふと気づく。そう、どうでも良い。今俺がこの状況で出来る事なんて一つしか無いじゃないか。
「お、おおおおおおお!」
障壁を解除したその一瞬で、幾千という傷が体に付く。が、それに構っている暇もない。目の前にもう迫っていた翡翠を、漆黒の大剣で打ち消す。
「っは、」
一瞬息を吸ったその瞬間に視界の端に捉えたのは、
「雲遥かなり、刃は天に刺青を刻みたまふ」
短刀を構え、殺すための一撃を放とうとしている悠斗。恐らくそれが放たれるまでは瞬間の間も無いであろう。
(天泣……いや、違う!)
その刹那に、悟った。これは違う。全く。それは天泣であり天泣でない、必ず殺す……、一撃。
「天哭」
刺蒼を刻みつけるように、無数の天の涙が襲いかかる。
「っ、あ」
一つ一つのその一撃は必殺の意を持ち、無論その全ての必殺を捌ききれる訳も無い。故に、和途には一つの結果しか待ち受けていなかった。
「……!」
声を刹那出すことすら敵わない程に、全てに裁かれるようにして幾千の必殺を受ける。そして痛覚さえも失った視界に捉えたのは、
雲遙の構えを取る悠斗。
(無理だ、何も出来な……)
あっさりと、和途はその一撃によって切り裂かれた。
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