第二話 夢の続き
「残念、これで終了だよ」
言いながら、床に倒れ込んでいる宵へと、短刀が振り下ろされる。光の刃が刹那にして目の前のソレを斬獲せんとしたその瞬間に、
「だがそうはいかせないんだなぁ」
漆黒の大剣が、それを受け止める。悠斗がふらりとそちらに目線を向けると、其処には、春日和途が居た。
「……『どっち』だ?」
「どっちも同じさ。和途っていう個体、それで十二分」
言いながら大剣を和途が構える。全く油断無しに、一瞬でも戦う素振りを見せれば容赦なく斬りかかって来るであろう気迫。
「……成る程」
そんな和途を見、悠斗は笑った。
「お前の全てを捨てて、真理を手に入れに来い」
そう言うと同時に、稲妻が迸り、和途へと飛ぶ。それを眼に捉えた次の瞬間には、漆黒の大剣は障壁へと変化し、稲妻を受け止める。障壁が大剣に戻り視界が開けた瞬間には、悠斗は其処から消えていた。
つかつか、と。倒れている卓斗も宵も凌もそのままに、和途は暗黒城の階段を上っていく。それが当たり前であるかのように。
まるで……、彼らが死ぬのが、当然であるかのように。
(……くそ、くそくそくそっ!)
それでも、動揺はあった。自分がエイナとして燻っている間に、凌は死んでいた、卓斗も死んでいた、宵だって、……目の前で、死んだ。
自分が、弱かったから。自分がエイナとしてではなく、和途として其処に存在できたら、変わったかも知れない。
(どっちも俺なんて事は解ってる)
どちらが表であろうと、この結果は変わらなかったであろう。だけど、だけど!
……自分が無力であるというただその事実が、憎くてしょうがなかった。
暗黒城の階段を上りきった其処には、三人の闇人が居た。伯爵に、キング・オブ・イモータル――ジャンゴ――、クイーン・オブ・イモータル、ヘル。
「確か、その中にはリタが居るんだよねぇ?」
確かめるように言葉を放つ。言葉の中の単語に反応したか、キングが呻く。それはまるで、内側からジャンゴがキングを引き裂こうとするかのように。
クイーンも同じようで居て、そしてそれを伯爵が止める。二人の喉元に噛み付き、自分が闇の存在であることを確かめさせるようにして。
「が、あああああああああぁぁぁ!」
キングの雄叫びが暗黒城に木霊し、そして次の瞬間、
伯爵がキングの手によって抑えられた。
「な、キング!」
制御しきれなかった事に驚きを隠せない伯爵が藻掻くが、元々彼はキングに仕える存在、不意を付かれて勝てるような相手ではない。
クイーンも同じように、伯爵を押さえ込む。そして、口を開いた。
「コロシテ」
一瞬にして、世界の全ての映像が、春日和途の中に流れ込んだ。
蒼銀の、顔の無いヒト型のバケモノに殺されている義和に俊哉。シグマの手によって殺されている麗華。それを見た将也がシグマに飛びかかり――。
シグマごと、悠斗に貫かれた。
「全て、って……世界……?」
今まで自分が生きてきたこの世界を。友が全て死んでいったこの世界、自分の全てを。捨てて、そして真理へ向かえと。悠斗はそう言った。
そしてそれは、裏返してしまえば。全てを捨てなければ、俺は辿り着けない。何一つ。
「あ、あああああああああああ!」
雄叫びと共に、和途は駆け出す。伯爵を、ジャンゴを、リタを。その先に見えた漆黒さえも切り裂いて、全てを吸収する。
捨てきる事なんて出来ない。ならば、全部俺の中に閉じこめる。世界を、俺の全てを、俺の中に……。永久に、閉じこめる!
全てを吸収しきった俺は、
とてもとても長い、塔の中に居た。
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