第八話
「流石は奴の血縁。……良い舞踏だった」
遺跡の床に、仰向けに倒れたまま伯爵は呟いた。
「アンタは……なんで父さんに拘るんだ?」
ダークの復活も、自分の存在の扱われ方も気にせず。彼は何故そこまでジャンゴに拘ったのか。
「貴様の父だけではない。その父――貴様にとっての祖父。奴らは私の好敵手」
そして貴様も、と。
伯爵の指が、こちらをゆっくりと指さす。
「願わくば、あの世でもう一度手合わせを願おう」
「何度でも再生出来るんじゃないのか? ヴァンパイア・ロードは」
伯爵は静かに首を振る。私は余りに長く生きすぎた、そう呟く。
「ラセルト。パイルドライバーを展開する。伯爵を棺桶に封じ、外まで移動するんだ」
「……解った」
片手を上げ、ザジから教えて貰った呪文を紡ぐ。
棺桶屋から貰った木製の棺桶がどこからともなく現れ、伯爵を封じ込めた。
欠片も抵抗することなく、棺桶は沈黙を守っている。それをラセルトは引きずり始めた。
「貴様は、あの器と同じ力を持っている」
遺跡の中、黙々と棺桶を引きずっているラセルトへと、棺桶の中から伯爵が語りかけてきた。
「そりゃ、俺もあいつも太陽仔や月光仔としての力は――」
「そうだ。……だが、其処ではない」
ラセルトは棺桶を引きずりながら首を傾げる。俺は父さんとお祖父さんから、太陽仔としての力を受け継いでいるし、お祖母さんからは月光仔の力を受け継いだ。それはリュアールだって同じハズだ。
「貴様ら二人に備わった力。それは、悪意」
「悪意?」
「覚えはないか、憤怒に身を染めた瞬間に」
リュアールがサン・ミゲルを襲ったとき。あの時、身体の奥から湧き上がった力と感情は――。
「そう、それこそが悪意。紛れもない闇の力」
ダークマターを持ったサバタ、その息子であるリュアール。
半ヴァンパイアとなったジャンゴ、その息子であるラセルト。
二人とも、与えられた条件は同じだった。悪意が、芽生えたか、芽生えなかったか。
それだけが、二人の差。もしかすれば、今此処で伯爵と戦ったのはリュアールであったかもしれない。
そう考えている内に遺跡の外に出た。おてんこ様がパイルドライバーを設置し、ラセルトは起動するための位置に着き、空へと手を伸ばす。
「――太陽!」
抵抗もなく、棺桶は太陽光によって灼かれ始めた。伯爵が紫煙として姿を現す。
先ほどまでラセルトが考えていた事を見透かすかのように彼は語る。
「何一つそれを否定できる要素など無い。だが人間、」
すでに思念体であり、表情など無いはずなのに、伯爵が笑ったように見えた。
「貴様らには、『今』しかないのであろう?」
迷うな、と。彼は言う。
「生きて生きて生き抜け、我が好敵手よ」
そして――、とそれは呟く。
「貴様の父を、解放しろ」
「え?」
その言葉に対して、質問する間も無く。
伯爵の思念体が、剣による一閃で切り捨てられた。
伯爵を切り捨てた何者かの方へと視線を向ける。
其処にいたのは。
「父、……さん?」
ラセルトの父、
世界を救ったヴァンパイアハンター、紅のリンゴの息子、
そして自身も幾度となく世界を救った一人の太陽仔、
ジャンゴ。
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