第三章
第九話
「父さん?」
もう一度、呟いた。
目の前にいるのは、紛れもなくラセルトの父――ジャンゴ。
「なん、で……!?」
「簡単だよ。こちら側に彼が着いているからさ」
リュアールが、ジャンゴの横に現れた。
ラセルトによって落とされた右腕は、黒い何かによって補われている。
その漆黒は紛れもなく、彼がダークの器であると証明していた。
戦いの経験の浅いラセルトにも解る。あの闇は――全てを、滅ぼせる。
ラセルト達の目線に気づいたリュアールは心底楽しそうに笑う。
自分の腕を切り落とした者の表情に恐れが浮かんでいるのが実際楽しいのだろう。
「見ての通り、聞いての通り。僕は後少しでダークになる」
言いながら左手に着けていた手甲をリュアールは外す。右腕を構成しているのと同じような黒い霧が、左腕を包んでいた。
「次の時間稼ぎは叔父様に任せるよ」
嬉しそうな笑みを保ったままリュアールは言う。おてんこ様の方をラセルトが向くと、彼は驚いたような表情のまま宙に静止していた。
「馬鹿、な……どういう事だっ!」
「敵に質問するとは、太陽の使者という割には頭が悪いのかな? ……まあ良いよ、教えてあげる。今叔父様の中に入ってるのは、君の想像するとおり――」
勿体ぶる様に間を空けて、リュアールは続けた。
「――キング・オブ・イモータル、さ」
おてんこ様の言った意味がようやくわかった。だって、キング・オブ・イモータルは確かにリンゴが消滅させたハズなのだ。
少なくともラセルト自身は周りの人からそう聞いていた。少しでもリンゴに関わった人間なら全てその事を聞いているだろう。
「まあ、勿論本人じゃないけど。僕がダークとして覚醒する一環としてテストで作ったレプリカみたいな物さ」
要は能力だけは同じだ、とリュアールは続ける。
「余りに膨大な闇だったから、叔父様自身の意識は無くなっちゃったみたいだね? 意識があったらもう少し面白かったんだけど」
「貴様ぁっ!」
おてんこ様が飛び出しそうになるがラセルトがそれを押さえる。
リュアールの右腕が構えられるのが見えたからだ。
「賢明だね。……さてラセルト、君は何故此処に来た?」
「何故、って」
ザジに星読みをしてもらって、その結果にそってこちらに来たら伯爵が居た。
(……あれ?)
そこでラセルトに違和感が芽生えた。伯爵はここで待ちかまえていた。ラセルトがここに来ると言う事がまるで決定された事項だったみたいに。
「そういうこと。銀河意志にとって星を操る程度造作も無い」
そこまで考えたところで、リュアールがそう告げる。つまりラセルトがここに来るように星読みをさせたのだ。
「お陰で時間がそれなりに稼げたよ。ここから君が太陽の街に帰るまでに僕がダークとなるには十分過ぎる」
「なっ……!?」
数日かけて此処まで来たのだ、ラセルトを無視して今サン・ミゲルを襲撃されればラセルトにはどうしようもない。
「ああ大丈夫、君が来るまでは待っててあげるよ。君の目の前で全てを壊してやらないと何の意味も無いからね?」
それに、叔父様と君が戦う時間も作って上げないといけない、と。
楽しそうに言いながらリュアールは足下に漆黒の転移魔法陣を作動させる。
それと同時にラセルトが背を向け全力で駆け出す。おてんこ様もそれに併走する。
「よーい、スタート。せいぜい楽しませてよ? ラセルト。……暗黒転移」
消えていくリュアールとジャンゴに、ラセルトは一瞬たりとも視線を向けなかった。
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