第三話


「サバタ、……さん?」
 自分の前で、盾になる様に。
 サバタは其処に立っていた。その腹からは、黒色の剣が飛び出ている。
「……ちぇ」
 ズルリ、
 リュアールは呟くと同時に剣を引き抜き、何もなかったかの様に暗黒の剣は虚空へ消えた。
 身体を支えられなくなったサバタが、その場に崩れ落ちる。
「……、……サバタさん!」
 叫びながら近寄り、抱き起こそうとする。
 しかしサバタはそれを拒み、首を振る。
「もういい、ラセルト」
「でも!」
 その会話を、面白そうに眺め続けているリュアール。
 そちらへと視線を向け、そしてこちらに戻す。
「頼む。……あいつを、助けてやってくれ」
 もう一つ、とサバタは付け足した。
「ひまわりに、伝えて……くれ。……ありがとう、ってな」
 そういって、一瞬だけいつもの笑いを浮かべたサバタから、力が抜けた。
 カランと、気のない音を立てて、サバタの暗黒銃が転がり落ちる。
 それを拾い上げたそいつは、言う。
「馬鹿だね、父様。そんな出来損ないを庇って」
 まあ、貴方も出来損ないだけどね、とそれは続ける。
「お前……」
「何、怒った? でも事実じゃない、君もこいつも役立たずなのは。僕と同じ血が流れてるとは思えないね」
 違う。
 なんでこいつは、……なんで、こいつは!
 自分の父親を殺して、ここまで平気な顔をして居るんだ?
「しょうがないじゃない。ダークマターを取り込んで、惚れた女まで利用して。それだけやっても、叔父様に二度も負けた役立たずなんだもの」
 僕はこいつみたいにはならない。そう、彼の唇は紡いだ。
「君は何も護れないよ」
 カラン、と何かが落ちた音がした。
 それと同時に、ラセルトの視線とリュアールの暗黒銃の銃口がそちらを向く。
 ザジがそこに立っていた。足下には杖が転がっている。
「ザジさん、逃げて!」
「サバ、……タ?」
 ダメだ、ダメだダメだダメだ!
「ジ・エンド、ってね」
 ガチン、
 それがトリガーを引いた音だったのか、
 ラセルトの中にあった鍵を壊してしまった音だったのか。
 それは解らない。
 派手な音を立てた銃口は、明後日の方向を向いていた。それは仕方のない事。
 なぜなら、その銃を支えていた、リュアールの右腕が飛んでいたから。
「……、え?」
 一瞬、理解出来ない。その一瞬の間に、目の前で自分に憤怒を向けていた少年は消えていた。
「う、わあああああああああああああああ!?」
 痛い。
 痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!
 悲鳴という名の絶叫が辺りに響く。それでも先ほどまで自分が銃口を向けていた先に視線を移す。
「許さない」
 一言だけそう呟いたラセルトの眼は、獣のようだった。
 気絶したザジを抱え、其処に立つそれ。
 血にまみれた剣を持ち其処に立つそれ。
 リュアールには、それが化け物にしか映らなかった。
「来、るなああああ、ぁぁぁぁ!」
 藻掻く様に落とされた右腕から暗黒銃を奪い取り、
 それは彼の左手に操作され狂ったように弾を放つ。
 しかしそれはラセルトに近づくと同時に消滅する。
 ひゅん、と剣を振り、血が飛ぶ。
 ラセルトの右手、そこに握られた剣の切っ先が、ゆっくりとリュアールに向けられる。
 ひ、と小さい悲鳴の形をリュアールの口が作ると同時、
 二人の間に、暗黒転移が作動する。
「くくく、奴の血縁か。興味深い……!」
「伯爵!」
 リュアールの顔が助けを求める笑みに変えられる。伯爵はリュアールに向き直ると、膝をつく。
「迎えに上がりました、ダーク様」
 言った次の瞬間、伯爵と呼ばれたそれとダークと呼ばれたリュアール、その下に空間転移の魔法陣が出現する。
「覚えてなよ、ラセルト……!」
 左手でラセルトを指さしながら、リュアールは言葉を放つ。
「暗黒転移」
 伯爵の呟きと共に、彼らは消えていった。
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