第一章
第一話
「ん、夢か」
懐かしい夢を見た。太陽銃を父から貰った日なんて、もう何年前か解りはしない。
彼の父――ジャンゴは、世界を救った英雄だ。
彼が幾度となく闇を切り払った為に、今この世界には太陽の光が降り注いでいる。
と言っても、彼、ラセルトもこの太陽の街、サン・ミゲルに住むみんなから話を聞いただけで詳しいことは知らない。
そのような話に興味を持つような年になる頃には、ジャンゴは彼の前から居なくなっていたからだ。
全き剣、グラムだけを携えて、ジャンゴがこの街を旅立ったのは十年前。
――ラセルトの母が死んだ、その次の日である。
結界を破り、一匹のヴァンパイアが街に潜り込んだ。それをきっかけに大量のアンデット達がこの街へ雪崩れ込み。
その戦いの中で、ラセルトの母は死んだ。
彼よりも少しだけ早く生まれた、叔父とザジの息子であるリュアールもその時に亡くなったと聞いていた。
次に朝日が昇る頃には、ジャンゴは剣を背負って、街を出て行った。
ラセルトに残されたのは、太陽銃と深紅のマフラー。そのマフラーは、ようやくサイズが合うようになったところだ。
しかし彼はそれを付けないまま眠気を訴える頭を振ってからベッドから出る。
適当な服装に着替えて、腰のホルダーに太陽銃を収める。壁にかけてあったグラディウスも持ってから部屋を出る。
下の階はザジの経営する酒場となっている。流石に朝なのであまり人は居ないが、それでも朝食を採りに来る人もたまに居る。
「おはようさん、ラセルト」
「おはよう、ザジさん」
ザジがラセルトに気づき声を掛け、ラセルトはそれに返事をした。
そのままいつもの通りに、店の経営を手伝う事にする。
カウンターに置かれた食べ物を、注文通りに客のところへ運ぶ。
最近は旅人も増えてきたか、知らない顔の人も多くなってきた。
商売が繁盛するのは良いことなのだが、問題はその旅人のマントの中に隠された物である。
こう数年手伝いで客を見ていると気づくが、彼らのマントの下には間違いなく武器が隠されていた。つまり彼らはヴァンパイアハンターなのだ。
ジャンゴ達が封印した二体の絶対存在――エターナル。祖父である紅のリンゴは全てのイモータルの長であるキング・オブ・イモータルを封印したと聞くが、
それでもアンデット達の出現は未だ収まっていない。
かくいうラセルト自身もヴァンパイアハンターであり、サバタやスミスから剣術などを教わったりしながらアンデットを狩る事によって生計を立てている。
「ありがとうございましたー」
考え事をしながら動いているうちに、店の中にいた客も皆居なくなっていた。
さて、ギルドに行って、今日の分の仕事を受注しなければ。
そう考えながら外に向かって歩いていくと、
「ラセルトか」
「サバタさん」
ジャンゴの双子の兄――つまり彼にとっての叔父であるサバタが居た。
昨日までギルドから回された仕事に行っていたが、どうやら今帰ってきたらしい。
「なんやサバタ、やっと帰って来たんか」
「ああ、少しばかり手こずってな。……すまん、寝る」
この時間に帰ってきた事を考えると確かに睡眠不足なのも頷ける。
時を経て、ジャンゴが浄化したという暗黒物質の影響は薄くなってきたとはいえ、
彼が太陽を長時間浴びるのを苦手な事はみんなが知っている。
「あぁ、そうだラセルト。太陽樹を見ておいてくれないか」
少しだけ変な気がするが生憎俺は専門外なんでな、と言うとサバタは寝るために宿屋の二階へと上がっていった。
「確かに俺なら少しは解るかも知れないけど……」
頬を掻きながらラセルトは呟く。
太陽仔を父とし、大地の巫女を母としている彼なら多少の力はあるが、だからといって母の様に太陽樹の様子を細かく知る事は出来ない。
しかし、サバタの言った“変な気がする”という言葉が気にかかる。
「まあ、取り敢えず行ってみないと始まらない、かな」
呟き、ラセルトは店を出た。
確かに、何かがいつもと違った。
そうは言っても、何が違うのかはよく解らない。
一体何が違うんだろう、と彼が考えている内に、太陽樹が光り出した。
その光景を目にして、彼の覚えていない記憶が、一瞬で頭の中を駆けめぐる。
ラセルトを襲うグール達、それを庇う彼の母。
その首筋にゆっくりとグールの牙が立てられようと――。
したところで急速に記憶が逆戻りしていく。彼自身が思い出す事を拒絶したのかも知れない。
忘れかけている微かな記憶が探り出したのは、発光する太陽樹と、崩壊する結界。
「、あ」
ラセルトが太陽樹に背を向けて走り出すと同時、結界が音を立てて崩れ落ちた。
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