第十四話


 金色の魔法陣が展開され、その上に立つラセルトの姿が変わる。
 ソル・トランス。
 いつか父が使ったという、その力。
 暖かい光が、自分を包み込んでいくのが解る。
 力が、溢れてくる。
 ――ラセルト。
「え、」
 もう二度と聞こえないはずの声が。
 自分を呼んだ気がした。
『気のせいでは無いさ』
 おてんこ様が、頭の中に直接語りかけてくる。
 自分を呼んだその声『達』は、自分の中にいる。
『戦い方は、教えて貰え』
「――うん!」
 父が、教えてくれる。
 彼の歩んだ歴史を。彼の背負った罪を。
 彼の喜びを、悲しみを、苦しみを、愛情を。
 全部、教えてくれる。俺は、一人じゃない。
「あはははは!」
 笑い声をあげながら、ダークが暗黒の剣を振り下ろす。
 グラムによってそれを防――がない。その刀身を滑らせるようにして、受け流す。
 暗黒の剣は虚空を切り裂き、ダークの体勢が崩れる。
 其処にグラムを叩き込む。闇の力がそれを防ごうとしたが、構わない。それごと切り裂く!
「あくぁ?」
 自分が攻撃を食らった事自体が理解できていないのか、ダークは首を傾げる。そして何気なく腰に手を当て、
「血?」
 自分が傷つけられた事に気づき、
「うふ、ふはははは。僕を傷つけたね。二度目、二度目だぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
 狂ったように叫び、飛び込んでくる。
 同じようにして斬撃が飛ぶが、受け流しきれないと見て、真っ向から防ぐ。が、それを弾かれてそのまま斬りつけられる。
「っづ……!」
「ふふ、ははははははははは!」
 もう一度と真横から斬りつけてきたそれと自分の間にグラムを立て、壁にする。一瞬だけそれが攻撃を防ぎ、その一瞬で太陽銃がダークの左肩を灼く。と同時にグラムが弾き飛ばされ、それを取った右手を斬りつけられる。
 鮮血が舞い、月光はそれを照らす。
 一手読み損ねれば次の瞬間には死という一文字しか存在しない。
 頭の神経を焼き切るようにしてひたすらにダークの動きを読む。
 頭の中から飛ぶおてんこ様の指示と、今真似られるだけの父の戦い方を真似る。自在に距離を取り、剣も銃も使って効果的に相手を攻める。
 一歩間違えれば死んでしまう戦いだと言うのに、ラセルトは不思議と落ち着いていた。
 父が、おてんこ様が。自分の支えとなってくれる人たちが近くにいるだけで、ここまで心強いなんて。
(負けない。……負けられない!)
 幾度も幾度も。闇と光は交差する。
 暗かった空が、東から明るみを帯びてくる。
 それだけの長い間、二人は戦っていた。
 既にラセルトの体力は限界。だが、ダークも傷を負っている。
「うあああああああああああ!」
 ラセルトが渾身の力を込めてグラムを振り下ろす。それはダークの振り上げた一撃と交差し、鬩ぎ合う。
「僕は絶対、絶対なんだよぉ! 君如きに負けるはずがないんだ!」
 じりじりと、グラムが弾き飛ばされそうになる。
「そうだな、俺一人なら負けるかも知れない」
 でも、とラセルトは続ける。
「今。俺の中には、おてんこ様が居る。父さんが居る」
 暗黒の剣が、圧され始める。ダークの表情が、歪む。
「俺を待っている人が居る。俺を支えてくれる人が居る」
 太陽の力が、暗黒の剣を打ち消す。
「俺は、独りじゃないんだああああああっ!」
 光の一閃が、ダークを切り裂いた。
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