第四章


第十三話


 夕暮れの中、螺旋の塔へ向けてラセルトは駆け抜ける。
 幼い頃から何度も見上げてきたが、実際に上った事は一度もなかった。
 ジャンゴとサバタが協力して道を作り上げ、その頂上でリンゴと戦ったという場所。
 まさか自分が上る日が来るとは思っていなかった。
「以前ジャンゴが上った時から誰も入っていないハズだが……」
 しかし油断はするな、とおてんこ様は言いたげだった。
 確かにジャンゴ達が以前仕掛けを全て解いたからと言って、もう一度ここを上る途中でリュアールが何かしらの妨害を仕掛けてこないとは限らないのだから。
「ああ、気をつける。でも急ごう」
 そう一言だけ呟いてから、ラセルトは太陽の側の塔へと一歩踏み込んだ。
 警戒しながら中を見てみたが、特に敵の気配などは無い。トラップも無いようだ。
「……早く来い、って事か?」
 足止めをする必要が無いという事は――。
「く、急ぐぞラセルト!」
 リュアールがダークになるまで、もう時間が無いという事。
 おてんこ様とラセルトが速度を上げて駆ける。勿論ある程度の警戒はしながら。
 しかしそのまま何事もなく二つの道が合流する地点までたどり着く。その頃には空は暗い色に染まっていた。
 そのまま頂上の間へと飛び出る。その中心に立っているのは、
「リュアール……」
「思ったより早かったね。叔父様相手でも容赦が無い」
 嫌みな笑いを浮かべながらリュアールは言う。彼の周囲へと視線を巡らせるが、どうやら既に――。
「それでも、遅かった。既に僕の中にダークの力は取り込まれたよ」
 残念だったね、と続けた次の瞬間、闇が閃光としてラセルトに放たれる。咄嗟に太陽銃を抜き放ちそれで弾き落とす。
「それでも……俺は」
「何? 勝てるとでも思ってるのかい?」
 心底可笑しそうに彼は笑った。それはそうだ、リンゴもジャンゴも、全ての人類が挑んで、それでも今まで勝てなかった相手に勝とうだなんて。
「面白い事を言うね。けれど、君に何が出来る、何が出来た」
 ラセルトへ向けて、リュアールはひたすらに言葉を紡ぐ。
 それはまるで呪い殺そうとでもするかのように。
「そうだな。俺は今まで何も出来ていないかも知れない。でも――」
 鋭い眼光がリュアールを捉える。
「――お前に抗う事くらいは、俺にだって出来る」
 ラセルトの視線を受けたリュアールは不快そうな表情で、
「ふざけるな」
 ただ一言告げる。今までに無かったような憎悪の感情が其処に見えた。
「人間如きが。銀河の意志に選ばれた僕に逆らうだと?」
 全てを掌握する事さえも可能な力を持ったリュアール。
 その表情には、自分の思い通りにいかないラセルトに対しての苛立ちが見えている。
「僕こそがこの世界の意志! 僕の決めた事こそが絶対! 全てのヒトは滅ぶべきなのさ! あの役立たずの父様は死んだ。その父様に勝った叔父様だって、君が殺した。解ったでしょう? 君は何も護れやしない!」
 そんなラセルトを絶望させようとリュアールは言葉を紡ぐ。
 確かに、自分は誰も護れなかった。ラセルトの表情が一瞬曇る。
「ラセルト! ……迷うな」
「解ってるよ、おてんこ様」
 それでも。此処から未来で生きていく、誰かを護る事は出来るかも知れない。
 ラセルトはグラムを抜き、構える。
 宵闇に包まれた世界で、月光により、その剣は白銀に光る。
 太陽は、空にはない。
「しかし、解っているな」
「ああ」
 母の言った言葉を、父の言った言葉を、思い出す。
 太陽は、心にある。
 俺は――戦える!
「行くぞ……、ダーク!」
「来いよラセルト! ぐっちゃぐちゃにしてやる……!」
 ダークの狂ったような笑い声と共に、ラセルトは駆け出す。
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