第五話
といっても、
ただ単に世界が反転してるだけだ、何か特別な物があるわけでもない。
世界を形成するというのなら、『塔』や『樹』、はたまたどこかの俺のように『城』といったような世界の中心点が必要なハズだがそれも見あたらない。
この鏡の世界が果たしてどれだけの物を取り込んでいるかが解らないと困るな。
全てをそのまま反転させた世界であるとしたら、鏡の世界の地核まで潜らないといけなくなるかも知れない。
まあ、何はともあれ拓真の奴を捜さない事にはどうにもならんな……。
と、言ってる側から発見した。
地面にこてんと横たわっている。まあ、死んじゃあいないだろ。
「おい、拓真」
「……う、春日か」
取り敢えずひっくり返して顔をこちらに向けさせる。
ふむ、腹部から食いちぎられた様な傷、か。
「四つ足だ。恐らくは犬……かな」
地面に座ったままそこら辺の壁にもたれ掛かりながら拓真は言う。
治癒魔法をかけているらしいが、動ける程度まで回復するにはもう少しかかるだろう。
「ほう、犬か。……室内飼いでもしてるか、はたまた他に行く方法があるか」
「水鏡、って手もあるけど」
なるほど、その辺りか。
……っと、
「お出ましだ?」
グルルル、とありがちな効果音が聞こえそうな唸り声を響かせながら、
ひたりひたりと四つ足の化け物がこちらへ歩いてくる。
「速いぞ」
「悪いがもっと速いのと何度もやり合ってるんでね」
飛びかかってきたそれを黒の右腕が受け止める。
纏っている漆黒の光がずるりずるりと右腕全体を浸食し、
「さ、やろうか」
ソゥハイトを発動させると同時、バチンと音を立てて黒い光が弾ける。
次の瞬間には右腕は禍々しい見た目の異形と化していた。
それを全く気にしない様子――いや、気にする程の知能も消えたか?
化け物は同じく化け物の様な俺の右腕を食いちぎろうとする。それを振り払い、
「残念、相手を見て飛びかかるべきだったな」
ゴキン、と音を立てて開いた右手で、腹を穿つ。
ぼたりぼたりと黒い血が右腕を伝って落ちる。うん、久々の感覚だ。
「相変わらずだね」
「俺の厨二病は発症が早かったんでね、年季が違うさ」
適当に笑いながら拓真の方へと歩く。治癒魔法も割と効果が現れてきた様だ、
拓真の家に帰って鏡から出る程度は訳も無いだ
「危ない!」
ろ、……っと!?
唐突に横から殺気、振り下ろされるそれを黒の魔手にて受けとめる。
「何々何事!?」
後ろへ跳んで下がる。
剣を構えた綺麗なお姉さんとやけにクールな見た目のお兄さんが居た。
なんで少年少女表記じゃないかって俺より年上っぽいからさ?
「大丈夫?」
「え、や、ちょっと待ってください、あいつ
ガキン!
は、と拓真が言ってる音に被せてお兄さんが今度は俺に剣を振るう。
黒の魔手がそれで壊れる訳もなく、取り敢えず浴びせられる斬撃全てを受け止める。
ソゥハイトの感覚はある、ということは恐らくただの覚醒者。
そうだな、俺が拓真を襲おうとしてる化け物に見えた感じか。相変わらず不便だねこの右腕は!
「っふ!」
派手な音を立てて剣を弾く、一発殴って気絶でもしてもらうか。
一瞬だけ黒の力を解除し、普通の右手で男の腹部を狙い、
「サバタ」
闇の力にそれは弾かれる。
――待て、サバタだと?
彼のソゥハイトであろうそれを見る間もなく更なる一撃がこちらへ飛ぶ。
「く、」
もう一度発動させた黒の魔手へと飛んできた男の右手がそれごと俺を吹き飛ばす。
まずいね、殺す気でやらないと割とやばいかも知れん。
だがそういう訳にもいかないので魔術を展開する。……ち、久々で上手く範囲が定まらん。
「面倒だから避けてくれよ? 当たったらご愁傷様、だ!」
バン!
閃光と爆音が辺りに撒き散らされ、その間に男の横をすり抜け女に喋る間も与えられず介護されていた拓真をかっさらう。
「おい、春日!?」
「今話そうとしても無駄だ、後日で構わんだろ」
拓真を立たせて全力で走る。そろそろ夜も明けるだろうし、彼らも鏡から出るだろう。
さて、明日辺りにはあっさりと俺の場所は知られてるのかなあ。
前へ/戻る/次へ