第十八話


 飛び出した先は空の上、
 一瞬落下する感覚とともに何かしら飛翔することの出来る能力を紡ごうと、
 したところで足が地に着いた。
「うぇ?」
 透明で何も見えないが、どうやら立つ事が出来るらしい。
 ……いつだろう、なんだか見た事のある光景なんだが。
「来たか」
 言葉に反応して前を向く、
 視線の先に一人虚空に立つ男が見えた。
 残された知識が警告を発し、口という器官が脳の命令のまま言葉を出す、
「干子……、陽輔」
「はずれだ」
 何?
「じゃあ、アンタは」
「この男が以前貴様に言っただろう、俺の名は」
 男は顔を上げる。純粋な黒だったはずのその瞳は、
 闇を示す紅へと変わっていた。
「サバタ」
 干子陽輔がソゥハイトとして召喚し俺の一撃を防いだという事実が頭の中に蘇る。
 蘇りはするがその記憶は存在しないという大きな矛盾が頭の中を駆ける。
「不思議そうな顔をするな。お前にもあっただろう、表と裏が入れ替わった瞬間が」
 当たり前のように彼は――サバタは呟く。
 だがその記憶さえも俺には存在していない。
「この男は世界の始点だ。確かにそれは間違っていない」
 目の前に居る人間は、干子陽輔自身は確かに世界の始点だった。
 しかし俺の知識は彼は違うものだ、と訴えている。それは俺の記憶が存在しない程度の昔に話したことから導き出された結論のようだ。
 つまり、
「そう。あの瞬間表に出ていたのは俺だった」
 サバタはそう呟き、
 彼が右手を一振りすると同時、暗黒の剣がその手に出現した。
「そして俺が言ったことを、貴様は覚えているか」
 サバタが――つまり、干子陽輔が俺に話した理由、という知識を引きずり出す。
「望み?」
 そう言った、という知識が頭を駆け抜ける。
「……アンタは、何を望んでる」
 身構え、黒の右腕を発動させる。
「俺が望むのは世界の終焉。……いや違うな」
 自嘲気味に虚空へ目線を投げかけながらサバタは続ける、
「世界の滅びを止めようとする“ある人間”との決着」
 ギラリとした紅い目が俺を捉える。
「そしてこの男が望むのは自身の消滅。始点という存在の消滅によってこの世界の滅亡を図った」
「世界の滅亡? ……なんでまたそんな」
「そこまでは俺も知らんな。知る必要も無い」
 呟き、サバタは剣を構える。
 要は、そのある人間とかいうのを自分の元へ来させる為に、いくつもの世界を殺す、と。
 世界を終わらせようとする干子の願いはサバタにとって都合が良いものだったと。
 ……まあ、知ったことではない。
 身構えた俺に向かって彼は一言放つ、
「さあ来い!」
 次の瞬間俺が振り下ろした右腕が剣に受け止められる。
 サバタがこちらを見ると同時、闇の波動が俺を吹き飛ばす。
 空の上を二転、三転してから立ち上がる。
 そこへ打ち込まれた漆黒の弾丸を全て黒の右腕で叩き落とす。
 その一瞬の間に懐まで潜り込まれた。
「くっ!?」
「はぁぁっ!」
 俺の首を切り落とすべく上へと薙がれた暗黒の剣が、
 何かに防がれた。
 サバタの眼が驚愕に見開かれ、それと同時に俺の拳がサバタを捉える。
 先ほどの俺のように吹っ飛び、立ち上がる。
「馬鹿な、既にこの空間を残して世界は崩壊したハズだ」
 サバタのその声を聞いて、俺を助けたものが何か気づく。
 なーるほど。
「記憶も何も無いが、それでも残るものはある、か」
 黒の右腕を解除する。
 そして俺の前に浮かぶ白銀の大剣――シュヴルツを、手にする。
「何故だ、何故お前以外の人間の力が、」
 困惑するサバタにシュヴルツの切っ先を向ける。
「世界が無ければ俺たちは生きられないけど、だからといってそれが無いと俺とアイツの縁が切れる訳じゃ無いさ」
 アンタにだって居るだろう、何かで繋がれた人間が。
 何を思ったか、俺の口からはそう言葉が紡がれた。
「戯れ言をっ!」
「じゃあその戯れに付き合ってもらおうか」
 暗黒の剣とシュヴルツがぶつかった。
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