第十七話
更に駆け抜けると、悪魔が姿を現した。
それは俺の右腕によく似た禍々しい力を振りかざして、
秋野先輩と拓真がそれを止める。
「行け、春日!」
拓真がそう叫び、俺は駆け出す。
足が疲労を訴えて来ているが、何故疲れているかもよくわからなくなってきた。
そもそも俺は何故走っているんだっけ?
俺の後ろを駆ける同年代の少年の名前さえ今では思い出せなくなってきている。
「お互い生き残りたいもんだねぇ」
「全くだ」
言葉を交わした俺たちの目線の先に、次元の狭間が見えた。
あそこに飛び込め、と身体が叫んでいる。ただの勘じゃないか、と思いつつそれ以外に何も無いのでそこへ駆ける。
すると何十体もの異形がその道を塞ぎ、
「ここは俺がやっとこう。思い出せたらまた会おうぜ」
「九曜!」
叫んでから少年がそういう名前だった事を思い出し、彼の開いた道を駆け抜ける。
走る俺の後ろから誰かの絶叫が聞こえる。
「春日、避けろ!」
それが拓真という人間――もう顔も思い出せなくなっている――の声だと俺の脳が認識して、悲鳴に近いその声から彼ともう一人を弾き飛ばした悪魔がこちらへ来ている事が簡単に思いつく、
だが俺は振り向かず駆け抜ける。
知識が何千何百何十回とその一瞬で警告するが足は止まらない、
そして俺の後ろから振り下ろされる殺気。
それは俺に届くことなく受け止められた。
……、そうか。
呼ばなかったのは。
巻き込みたくなかった、そんな理由じゃない。
ただ、俺は。
分かっていたんだ。
――こいつは、来るって。
「サンキュ、後頼むぜ!」
「ああ。行って来い、和途!」
後ろに居るその声が誰のものか。
そんな事は知らなくたって、覚えていなくたって、構いやしない。
分かってるんだから。
俺の背中を護っているその人間は、
俺の最高の友人だ。
なんでそんな事が分かるかって?
――、そういうものだから、さ。
記憶でもなく知識でもなく、
俺自身が俺に語りかけてくるその声に従って、
後ろなど一瞬足りとも見ずに、俺は次元の狭間へと飛び込んだ。
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