第十二話


 単身、鏡世界へ降り立つ。
 左右の反転した世界は以前と同じように俺を迎え入れるが、特に異形が居る訳でも無さそうだ。
「んー……」
 どこから漏洩したのかもわからないが、わざわざ俺に送ってくるんだから俺宛だろう、あのメールは。
 これで義和辺りに渡してねとか言いながら手紙出されたら新しくソゥハイト覚醒させちゃうほどプッツンするぞ畜生。
 いざというときのために黒い光を右腕に纏わせたまま歩く。
 まあ、実界で包帯巻いて歩いているほど酷くはあるまい。こっちに来てる人間ならご理解いただけるだろうしこっから出ない人間には関係ない。
 とまあさておいて、メールの送り主はどこにいるのやら。
「春日和途だな」
 おぉ、ご都合展開。
 気づけば少し先のところに男が一人立っていた、
「ですよ、っと」
 答えると同時、声の主の目の前に移動する。
 一瞬その人物――んー、特に見覚えは無いね、この顔――の表情が驚愕を浮かべ、だが次の瞬間には刀がこちらへ飛来していた。
 速いがしかし身体強化を施している視力ならどうにか捉えられる。黒の右腕でそれを受け止め、
「居合いか」
「止められるとはな」
 元々止めるつもりだったろうよ、とツッコんでやるとそれもバレてたかと目の前の男は頭を掻いた。
「同学年か?」
「え、……あー、知ってるかと思ってたんだが」
 ウチのクラスにしょっちゅう来てるから、と言ってから男は名乗る、
「高等部一年六組、九曜怜だ」
 ん、六組の生徒か。
「そ、お前の友人の晶波とクラスメイトだよ」
 しょっちゅう六組には遊びに行ってたはずだがまるで周りを見ていない事が判明した。
 これは登下校中の交通事故には気をつけねばなるまい。
「それは悪かった。で、用件は」
「……なんか晶波相手にしてる時と違って素っ気ないな」
「僕は内気な少年なんですー」
「初めて話すがそれだけはあり得ないと思う」
 ……ひでぇなこいつ。
 気にすんな、と笑い飛ばしてから九曜は話し出す、
「いやなに、本当は黙っておくつもりだったんだが話しちまおう。晶波から聞いた話だ」
「あ? 卓斗が?」
 黙ってろって言われたから俺はあくまで何も言ってないことにしてくれと呟き、続ける。
「高等部三年に、秋野修一って男がいる。そいつが何かしらの情報を持ってるらしい」
 卓斗の奴。……何気に調べてやがったか。
「ってことだが別にまだアンタに相談された訳じゃないから動いたのは秘密、だとさ」
 自然と笑いが口からこぼれた。
 相変わらず変に律儀な奴だ。恩でも売ってくれりゃ良いのに、返すから。
「オーケーわかった。で、その願いを聞き届けてわざわざこんな」
「回りくどいことをしてたんだがね、ここまできて面倒になっちまった」
 俺の言葉を続けてそう答え、九曜は笑った。
 釣られて俺もまた笑う。
 ひとしきり笑ってから、明日その秋野という先輩が居るクラスへ案内してもらうことにして、別れた。
 味方の味方が味方とは限らないが、友人の友人は友人で良いだろう。
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