第十話


 しばらくの時が経過した。佐竹原先輩やら義和はちょくちょく鏡世界になんらかの手段で渡って調べているが、今のところ何か見つかったりはしていないようだ。
 高等部二年の教室をついでにちらりと見ると、干子先輩が本を読んでいるのが見えた。
 ……彼のソゥハイトがサバタだったってのは、なんなんだろうか。
 湯沢は律儀に高等部に来て拓真と話している。飲み込みは早そうだし、一月もあれば十分かな。
「っと、春日先輩こんちわっす」
「ああ、神山か。湯沢の付き添いか?」
 です、と頷きながら神山は湯沢の方に視線を向ける。
 そうしてこちらに視線を戻してから、
「しかし世界の崩壊なんてマジなんすか、どうにもいまいち」
「俺も信じたかないねえ。……だが生憎本当なお話だから困っちまうよ」
 ですよねぇ、と神山は項垂れた。
 湯沢を待って下校するというので卓斗の奴を待たせている俺は彼と別れることに……、あ、
「えーっと、なんつったっけ君のアレ」
「アレ……? ああ、ダイダラボッチって言います」
 俺の周りの人間は俺の適当な言葉を正確に読みとってくれるので大好きです。
「んじゃそのダイダラボッチによろしく頼むよ。助けて貰ったのは事実だしね」
 武器にお礼言っといて、ってのも変な話だけどな。
 言って、神山にも礼を言ってから手を振って別れた。
 さて、これでいつも通り昇降口で待ってるのが女の子だったら文句は無いんだがねえ。
「何か言ったか」
 考えている事が顔に出ていたか苦笑しながら卓斗が聞いてきた。
「なーんも?」
 肩をすくめてそう答え、バットがボールと当たった音を聞きながら今日も野球部は頑張ってるねぇ、などと考え、俺と卓斗、他にも恐らく大量に居るだろう帰宅部の人間達は帰路に就くのだった。


 家に着き、着替えてからいつも通りにゲーム機の前に座る。
 立ち上げると同時、ぐみみむむ、とゲーム機にあるまじき振動音が響く。
「おぉぅ、最早ゲーム音量よりやかましい」
 ヘッドホンどこやったっけなー、と室内を彷徨いているとインターホンが鳴る。
 ぬぇ、客人か?
 扉を開けると、
「よう」
「っと、なんだ真那か」
 如月真那が其処にいた。
 年上は敬えよー、などと言われたが今更そんな気にもなれんね?
 取り敢えず普通に部屋に上がって貰う事にする。


 ボタンを一つ押すと光が走り次の瞬間に市街地が見事に消えた。
「で、何の用事よ?」
 それでも死ななかった恐るべき耐久力を持つ敵さんがこちらへわさわさと這い寄る。
 くるりと逆を向いて市街地を破壊した張本人は敵からすたこらと逃げ出す。
「あ、ちょお前逃げるなよ。……いや何、大した事じゃないさ」
 もう一人のキャラクターもそれを追って逃げようとするが敵に囲まれる。
「ざまぁ」
「うっせ。アレだよ、お前が言ってた『俺』に似た存在」
 ほう、と話に興味を示しながらボタンをぽちっと。
 キャラクターに群がっていた敵達が一瞬にして焼き尽くされて消えていった。
 ついでに言うなら勿論その中心に居たキャラクターもである。
「はい、ミッションクリアー、っと。……で、あれがどうかしたか?」
「お前もうちょっと年上敬えよマジで……。ああ、少し仮説みたいなのを思いついてな」
 コントローラを投げ出しながら真那はこちらへと向き直る。
 床に転がった無線コントローラを横目に俺は自分のコントローラを床に置いてゲーム機へ近寄る。
 横倒しにされているそれの電源を切ってから、
「仮説? 確定って訳じゃあないんだな」
 電源やらのコードを抜いて片づけ始める。コードは適当にまとめて棚の上に、っと。
「そりゃ、こんなでかい騒ぎの中核を俺がすぐさま突き止められる訳があるまい」
 言いながら足下に置かれたコップを手に取り、中に入っている炭酸飲料を一口真那は飲む。
 その間にコードを片づけ終わって本体を運――ぼうとして、ソフトを取り出し忘れた事に気づき電源コードだけ取りに戻る。ついでにソフトの箱もだ。
「まあ、確かにな。で、その仮説ってのはなんだよ」
 むいー、と音を立てて飛び出てきたトレイからソフトを取り出し箱にしまう。
 コードと箱を元の位置に戻して、本体を持ち上げる。……やっぱ重いなこれ。
「あー、なんだかんだでお前驚くからそれ片づけてから話すわ」
 そんなに事がでかくなってるのかよ。勘弁してくれ……。まあゲーム機落とすのも勘弁願いたいからさっさと片づけるが。
「で、何さ」
 本体を片づけ終えて、真那に近づきながら問うと、
「簡単。あれ自体が『世界の始まり』っていう話さ」
 余りに突然な言葉に躓いた俺の足が当たって見事にコップがその中の炭酸飲料を床にぶちまけた。
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