第八話
とりあえず義和の意見で鏡世界を探索する事にした。
世界の中心点が未だに見つからないが、見つけないと話にならない。
「ドッペルゲンガーとか?」
先ほどの事を話すと、拓真がそう言った。
「んなのは今まで何度も会ってるさ。なんかこう……違うんだよ、違和感がありすぎる」
俺だが俺じゃない。真那だが真那じゃない。悪魔だが悪魔じゃない。
そう考えていると、前から少年が歩いてきた。多少の出血が見られ、義和がすぐに駆け寄る。
壁に寄りかかって座り込んだ少年の元へ歩くと少しだけ彼は身を固くした。……あ、黒の右腕解除すんの忘れてた。
「安心しろ、俺は正気だ」
ある種狂気だけどまあそれは黙っておこう、能力の解除と同時に少年は少し安心したような表情になった。
「で、知り合いか義和」
「えぇ、隣のクラスの神山太熊です」
「そんなことより、明がまずいんだ、どうにか出来ないか城戸!」
治癒魔法を容易く使う義和を特に気にも留めない辺り、彼らも覚醒者か。
……なるほど、力の感じからするに鏡蝶を試して自らに打ち克って発現した、ってとこか。
「向こうから化け物が、」
指で方向を示している神山に見せる様に、
「そりゃちょうどこんな手の奴か」
右腕を具現させると、彼はこくこくと頷いた。
さっきの悪魔か。……動きが早い。
「拓真、任せる。義和、着いてこい」
「解りました」
「了解、っと」
一瞬だけ神山に目線を向けてから義和は俺の後へ続く。
拓真は治癒魔法の陣に隠して浄化魔法の陣を書き始めていた。まあ、今の少年が悪魔に感染して発現されても困る。
目線を前へ向けると、影の軍勢を率いた悪魔が見えた。
「なーにを始めるつもりなんだありゃ……」
「多勢に無勢、とは正にこのことですね」
こりゃむしろ笑えんね。
義和の放った魔力の杭が何百本と同時に軍勢の中へ飛び込み、炸裂する。
何体かが弾け飛んだそこにそいつらを率いる悪魔によく似た存在が入り込み、
「そー、らっと!」
いくつかを一息に引き裂く。断末魔を上げる事もなく虚空へ消えたそいつらを気にする素振りもなく他の奴らの目線が一気に俺へ向く。
そりゃそうだ、集団のど真ん中に居る奴をフルボッコにすれば圧倒的に有利だろう。
「だがそうもいかない」
「台詞取らないでくださいよ春日さん」
ぱちん、といつのまにか空中に跳び上がっていた義和が指を鳴らすと同時、
俺の周りだけを避けるように雷撃が落ち、影の軍勢が燃やされる。
「うお、詠唱時間あんだけ短かったのによくやるね」
まじめに感心する。炎以外の魔術だったら真那と並ぶんじゃないかこいつ。
「ありがとうございます。さあ、いきましょうか」
着地しながら俺に一礼して義和は前に向き直る。さーて、神山少年が言ってた明とか言う人はどこに居るのやら……?
「おっと、」
再びこちらへ飛び込んできた悪魔と目が合う。矢張り『俺』に似ている。そして俺に似ている。真那に似ている。
――、
何か掴めそうになったところで悪魔は俺から距離を取った。
その後ろで飛んでいる骨組みだけの竜の上に誰かが乗せられているのが見える。
言う前に察したか義和が気配を殺して移動を始める。気づかなかったか、気づきながら気にしていないのか、悪魔はただ俺を見た。
「君は誰だ」
おや、意外と普通に喋れるんじゃないか。
「ただの人間だよ」
握手でもするかのような気軽さで出した黒の右腕に悪魔の右腕がぶつかる。
ぎちぎちぎちぎち、と大気が歪む音が耳に届き、
「僕は誰だ」
「、?」
なんだこいつ……?
自我を持つのに自身を認識していない?
思考を巡らせている間に悪魔の左腕がこちらへと飛んできていた。魔法障壁を展開するが無詠唱で発動させたものにそれほどの効力はない。
「あでっ!?」
身体強化によってある程度のダメージは防げたが痛いものは痛い、しかしなんだこいつ。
目線を上げると骨組みの竜に向かって義和が跳び上がっていた。ブレスを吐こうとしているが遅い、どうやら明という奴の救出は無事に済みそうだ。
「僕は――」
呟いたそいつの周りを闇が這いずる。なんだ、この感覚、どこかで見たぞ?
次の瞬間、漆黒の槍がこちらへと飛んできていた。
「っの!」
左手を突き出し炎弾をいくつか放つ。突き破って更に進んできたそれを右腕で殴り飛ばす。
瞬間悪魔はこちらへ来ていて、その両腕が引き裂く様に俺を狙う、まずいな、間に合わんぞ――。
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