第七話 参戦


「しっ」
 短く息を吐き出すと同時に前に跳び出す。その行動は予測されていなかったか、先程まで居た箇所に矢が数本刺さり、爆発する。
 緋芽の眼が春日の腹部を捉える。それと同時に何かも読み取れない何かが射出される。
 それを上に飛び上がって避ける。そしてそのままの勢いで、まるで何かを引き裂くようにしたその右手を振り下ろす。
 緋芽を庇うようにして伸びてきた黒い影を、白の右腕が吹き飛ばした。
 着地すると、ほとんど零に近いような距離で、眼が合った。紅い眼がただひたすらに殺意だけをこちらの眼へと送り込んでくる。
 バチン、と何かに弾かれる。
 右腕ごと後ろに吹き飛ばされる。見えない地面に激突し、そのまま二転、三転。身体中を打ち付けた痛覚が警告を発している。
 その感覚を無視して視線を前に向けると、
「なっ、」
 緋芽のソゥハイトを直接付加したであろう、漆黒の矢が放たれていた。それは春日を穿つべく、虚空を切り裂きながら飛来する。
(くっ、そ)
 白の右腕を前方に突き出す。それと飛行機雲の如く空を引き裂いてきた矢が激突する。
 バチバチと力が鬩ぎ合う中に、殺気がただただ込められていた。右腕に力を入れながら緋芽の方を見やる。
「ナイアラルトホテプ……」
 緋芽は、ただそう呟いた。バキン、とまるで錠でも壊したかのような音が響くと同時に、白の右腕が弾かれる。
(まずい)
 その次の瞬間に、矢が右腕を貫いた。一瞬にして白い光が消え失せる。ボン、とコミカルにさえ聞こえるような効果音と共に、砲撃が内側から炸裂させられた。
「っ、がぁぁぁぁ!」
 雄叫びのような悲鳴が上がり、春日の左腕が右腕を肩口から切断された右肩を押さえる。
「うふふ、汚い蟲さん捕まえた」
 ギラリと、紅い瞳が春日を見下ろす。黒く濁った瞳が緋芽を見上げる。
「邪魔する蟲さんは、潰さないと」
 いつの間にか双剣にその姿を変えていた弓が、振り下ろされる。後ろに跳ぼうとし、気づく。
「……はい?」
 彼女の影が這いずり回り、春日の足を捉えていた。
 逃げる事さえ叶わずに、双剣は振り下ろされ、


 白銀の大剣に止められた。
(……待て、よ)
「篠鐘、悪いけど俺のダチに手は出さないでくれよ」
 春日の驚愕の瞳の先に、晶波卓斗が立っていた。
 彼の持つ大剣、シュヴルツの持つ能力。精神世界などの、異世界への介入。
 先程の覚醒からまだ大して時間も経っていないというのに、こいつは武器の特性まで使えるようになっている。
(楓!)
 卓斗の後ろに浮かんでいる楓へと声を掛ける。
『大丈夫、和途。お兄ちゃんは、大丈夫だから』
 楓が、こちらに笑みを向ける。そして卓斗と同じように目線を緋芽へと向ける。
『今は、緋芽さんを止めないといけないんでしょう?』
 そう言うと、楓は再びぼやけた影となり、そして卓斗が緋芽の持つ双剣を大剣によって上にはじき飛ばす。春日の足にまとわりついていた影が消える。が、それと同時に見えない箱によって春日は其処に捉えられた。
「おい、卓斗!?」
 その力がシュヴルツを紡ぐ物と同様で在る事から、それが卓斗の力で在る事に気づき、春日が声を上げる。左手でその見えない壁を殴りつけるが、ビクともしない。
「流石に片腕持ってかれてる奴を戦わせる訳にもいかないだろうが」
 言うと、大剣をゆっくりと構え直し、卓斗は緋芽に向き直った。
「篠鐘。俺のダチを傷つけた罪は重いぜ」
「しょうがないじゃない。ソレが私と悠斗先輩が一緒になろうとするのを邪魔するんだもの」
 ソレ、という言葉から察するに、最早自分と悠斗以外はただのモノとしてしか認識していないのだろう。
 つまり、それは卓斗にも当てはめられる訳で。
「貴方も私を邪魔する汚い蟲なの?」
「残念ながらそういう事になるだろうよ」
 言うと同時に卓斗が大剣を振り下ろすが、交差された双剣にそれは押さえられる。卓斗と緋芽の視線がぶつかり合う。
 互いに殺意を秘めたその眼が、周囲に殺気を振りまく。
(楓、)
『解ってる、殺しはしないから』
 春日が言葉を紡ぐ前に、私だって殺したくなんかないもの、と付け加え、そして楓は卓斗に力を渡す。
「……畜生」
 呟いた次の瞬間、白い光が飛び出す。それはシュヴルツの中へと飛び込み、淡い光を零し始めた。
 それは間違いなく春日のソゥハイトのモノだが――。
(『他人のソゥハイトと融合した』……!?)
 その光景は、ありえないものだった。シュヴルツは、卓斗のソゥハイトである楓の力によって形成されたモノ。
 それに、何故自分のソゥハイトであるデウス・エクス・マキナが同化出来るのか。
 いや、同化こそ出来ても、下手をすれば卓斗自身が危ないかも知れない。
「流離!」
 真っ赤な華を塗りつぶし、世界が藍色に染まる。そして天空から光の剣が幾千と撃ち放たれ、それは緋芽の転送した砲撃により全て相殺される。
 卓斗の死角から影の触手が伸びるが、先程の白の右腕から飛び出したのと同じ様な白い帯がその全てを消滅させる。
「デ、ム……」
 言葉が、零れる。
 機械仕掛けのハズの神様は、いつのまにか、意識を持っていた。紡がれた時に込められた願いの為に、それは動く。
「うおぉぉぉぉぉぉ!」
 卓斗の雄叫びが、精神世界に響き渡る。その後ろに見えるのは、彼の妹である晶波楓、そして、
 意志を持つ、神。
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