第三十話 先へ


 校内から異能は消えていたらしい。
 それに違和感は覚えていたが――。
「まさかここに居るたぁ思わんだろうに」
 黒の右腕がその腹を穿つ。
 ずるりと崩れ落ちたそれは倒れ込むと霧散し消えた。
「まあ、あのコピー・ロックマンどもで回収してたんだろうな」
 で、そのコピー・ロックマン達も異能の回収が終わった今、
 こっちに回されてるか、地上で真那が殲滅したか。
 卓斗達がこっちに来てるっていうなら、おそらく向こうも異能なりコピー・ロックマンなりとの戦闘になっているだろう。
 モデルSとでも鉢合わせてなければ良いのだが。


「氷崩ッ!」
 ヒュゥ、と大気が凍り付くような音と同時、
 まさしく雪崩のごとく氷の波が押し寄せてくる。
 そのすべてを卓斗が光の剣でなぎ払うが、それすらも追いつかない。
「っく、」
「雀蜂!」
 空間に黒い穴が開く。その中に氷の波は飲み込まれ、
 それから起きることを察知したモデルSと卓斗の両名が後ろに飛び退り、
 周囲の空間が炸裂した。
「っちょ、亥角先輩、殺す気っすか!?」
「避けられたなら問題なし!」
 大ありだと叫びたいところだがモデルSと距離は取れたのでよしとしよう。
 ……しかし、
「義和の嘘つきめ!」
「流石に確実にこないとまでは言いませんがここまで早く遭遇するとは……」
 魔力の杭を放つがその全てはモデルSに接触すると同時に凍りづけにさせられている。
 どうやら魔力の量も質も、あちらの方が上らしい。
 城戸義和は天才と呼ばれる人間である。
 元々素質はあり、だがその少年は慢心しない。故に積み重ねた努力は自信となる。
 ソゥハイト――、自身の思い描く幻想。
 それはつまり、自分自身の意志がそのまま反映される。
「不動明王」
 故に彼は強者である。
 しかし天羽凌はそれにさえも打ち勝つさらなる強者だった。
 生み出された深紅の長剣、流光を手に義和は駆ける。
 亥角先輩の一撃で後ろへと引いたモデルSのその隙を突く。
 が、その一撃はセイバーにて防がれる。
 ぞわりと背中を駆け上がる悪寒とともに後ろに下がろうとするが
「遅い!」
 水が一つの柱に見えるような速度で打ち出され自身を貫く。
 ぐ、と一瞬のうめき声を上げると同時、それは横に薙がれた。
 鮮血があたりに溢れ、義和はその場に倒れ込む。
「城戸君!」
 秋宮がそこに駆け寄り、致命傷でないことを確認すると治癒術を施す。
 それを庇うように篠鐘が立ち、
 面白そうにその状況を眺めてから、
「最奥に居る。来たければ来な」
 天羽凌はそう言うと姿を消した。


「っち、遅かったか」
「春日……先、輩」
 義和の掠れた声が聞こえる。秋宮が治癒術をかけている最中であることを確認すると、
 鳴神にも手伝うよう指示を出してから義和の方へと走る。
 全体を一度見ると、真那は奥へと歩を進めていった。
「義和、しゃべれるか」
 一瞬の間を置くがそれで彼が彼であることを確信し義和は話す。
 ……彼が既にいつもの彼でないこと、それもどこかでわかりながら。
「モデルS、と……鉢合わせ、ました」
 掠れがすれの声を紡ぎながら義和が言うには、卓斗達は既に凌を追って奥へと行ったようだ。
 わかった、と春日は彼の言葉を遮り、何かあった時のために居るのだろう、亥角の方へと歩く。
「中等部の……春日君、だっけ?」
 本来ならこちらは敬語でも使って話すべきなのだろうが、
 既に人の皮は脱いだ、元の世界に戻る気もない。
「ああ、一応な」
 今となってはなんの意味も無いさ、と続ける。
 敬語とかを気にしないタイプなのだろう、先輩に対する春日のその態度も特に気にかけることもなく亥角は続ける。
「その人と一緒に居たってのはどういう事?」
 視線は真那の歩いていった先に向けられていた。
 そうか、鳴神を回収するために一度卓斗達と戦闘を起こしてるんだった。
「別に。アンタ達の敵じゃねぇけど味方でもねぇ、そういう事さ」
 それだけ言うと春日は踵を返しもう一度義和の元へと歩く。
「すいま、せん……先輩」
「良い、十分だ。悪かったな、無茶させちまって」
 それだけ伝えると義和は少しだけ笑ってから、治癒術に身を委ねるようにして意識を閉じた。
 後何分かかるかまではわからないが、鳴神と秋宮ならどうにかできるだろう。
 さて、義和が回復したら真那を追いかけないと……。
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